約 1,012,674 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7308.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い ロマリアを飛び立って二日後。途中再びオルレアン邸で一泊したルイズ達は、何事もなくトリステイン王宮へと到着した。 前回のことがあったためか、ルイズの顔を覚えていた門衛は、ルイズの要求通り直ちに上へのつなぎを取ってくれた。 シルフィードも今回は王宮内の厩舎で、たっぷりとお肉がもらえるのでご満悦である。 但し、タバサから念話で(しゃべったら実験動物として捕まる)と脅されているせいで、いまいち挙動におびえが見えていたりするが。 厩舎の世話係は、「大丈夫。怖がらなくてもいいよ~」と話しかけてくれるものの、その優しさについ話しかけそうになるのを押さえるのに必死と、あまりにもぐだぐだな悪循環があったりするのだがそれは別の話。まあタバサが付いていられたので、実際には何も無かったのだが。 そしてルイズとなのはは、再びこの国の三巨頭、マリアンヌ大后、マザリーニ枢機卿、アンリエッタ王女の三人と対面していた。 「ご苦労であったな、ミス・ヴァリエール。して、首尾の方は」 「恐れ多くも、今回の件についての、返答の書状を預かって参りました」 教皇からの手紙を差し出すルイズ。この場ではもっとも上席となるマリアンヌが、丁寧に手紙を開き、内容に目を通す。 その瞬間、思わず体がぐらりとなるが、何とかそれを立て直すと、幾分震える手でその書状をマザリーニに手渡した。 その様子から予測が付いたのか、枢機卿の顔色に変化はない。しかし、読み進めるほどに鋭くなるその瞳が、事態の重さを物語っていた。 「これは……少々掃除を早める必要がありますな」 「どういうことですか?」 ただ一人事情のわからないアンリエッタが、マザリーニに問い掛ける。 「教皇聖下は、アルビオンの戦いに、我々の側の味方として立っていただけるとのことです。それも直接」 「本当ですか! でも……直接?」 喜びを表明したものの、今ひとつうれしくなさそうなマザリーニに、アンリエッタはその原因が『直接』と言うところにありそうだと思い、彼に問い返す。 「ええ……聖下は直接、その御身を持って戦場に立ち、ミス・ヴァリエールの『虚無』が間違いなく正当であり、また、クロムウェルが名乗る虚無が偽りであると、自らの名にかけて示すというのです」 「え……」 さすがにアンリエッタの顔が蒼白になった。それは事実上、聖下ともあろうお方が、戦場の最前線に立つことを意味する。 そうなるとそれを守らねばならないアルビオン=トリステイン同盟軍の責任は重大どころではない。髪の毛一筋の傷でも聖下につけようものなら立場はない。 「それに当たって、準備や時期あわせのため、聖下はお忍びで我が国を訪問するそうです」 とんでもない追い打ちが来た。 「それは……大変な名誉ですね」 そう返すので一杯になっている。 「ええ。まあ、お忍びでもありますし、お迎えの準備の方は、むしろ質素かつ厳粛なものであるべきです。元々今の聖下は派手な浪費を嫌いますからね」 だが、とマザリーニは言葉を続ける。 「逆に訪問の事実は厳重に秘匿しなければなりません。いろいろな意味でこの事実が漏れると問題が起きます」 そういって彼はその問題点を列挙する。 一つはロマリアとの関係。聖下はこっそり抜け出してくる気らしいので、ばれるのは国際問題になる。 続いてアルビオンとの関係。レコンキスタと繋がりのある人物に漏れたら言わずもがなである。 それに加えて、刺客の心配などもしなければならなくなる。 そう考えた場合、この場合の最善手は。 「少々強引な手を打ってでも、内部意思を統一しなければなりませんね。たとえ官僚の半数を誅殺することになろうとも」 その目は真剣で、ルイズといえども肌寒さを覚えるほどであった。 その彼がルイズの方を見つめる。 「場合によっては、あなたに一肌脱いでもらう必要があるかも知れません」 「は?」 「いえ、何せこの国に巣食う毒虫は隠れるのが上手ですので。少々強力な薬を使わねばならないかも知れません」 さすがに経験の差、ルイズにはマザリーニのいっていることがよく判らなかった。ちらりと後ろのなのはの方を見ると、何とも微妙な顔になっている。なのはにもはっきりとした確信はないのね、とルイズは思った。 こういう場合はどうしたらいいのか。ルイズは、 「マザリーニ様には何か策があるみたいですね。私に出来うることならば何なりとお命じください」 丸投げした。この時ルイズが考えていたことを言葉にすれば、餅は餅屋である。 「特別に頼みたいことは今のところありませんよ。まあ、せいぜい囮ですな。一番いいのはあなたが次期国王として戴冠するという情報なのですが、これはあなたの虚無と表裏一体なので今回は使えませんし」 「当然ですね」 ルイズも頷く。マザリーニはそんなルイズを、頼もしそうに見つめて言った。 「今しばらくは英気を養っておきなさい。その時が来たら、あなたの背中にはこのトリステインとアルビオン、加えてロマリアの一部まで加えた、途方もない重圧がその背にかかることになりますから」 「はい」 力強く答えるルイズ。その様子を見たマザリーニは、大事なことを忘れていたことに気がついた。 「そうそう、うっかりしていました。ミス・ヴァリエール。あなたに一つ大事な使命を与えましょう」 「なんでしょうか」 ルイズはちょっといぶかしげに思った。今の言い方からすると、これから言われる任務は、今思いついたように聞こえる。枢機卿の性格とやり方からすると、こういう思いつきで何かをさせる人物とは思えない。 だが聞いてみれば何ということはなかった。 「あなたに関することをヴァリエール公爵に伝えて、あなたをある意味利用し尽くすことをお伝えするのを忘れていました。 ミス・ヴァリエール、ちょうどいい機会でしょうから、里帰りして今までのことを説明すると同時に、参戦許可をもらってきなさい。あなたにしても心を決める時は必要でしょう」 そしてルイズとなのはは、馬車に揺られてルイズの故郷たる、ラ・ヴァリエール領へと向かうことになった。 今まで移動する時は馬かシルフィードの背中だったことが殆どなので、こうして乗り物に乗るのはどちらにとっても久しぶりのことであった。 幸い、実家までの道行きはそれほどかかるものではない。おまけに今回は御者や護衛、使用人まで付いている。到着まで二人は何もすることがなかった。 「考えてみると、ここしばらく、ものすごい勢いだったのね、私たち」 「私はもう少し余裕ありますけど」 訓練業務の間に高レベル魔導師として何かと用事が挟まる上、ワーカーホリック気味のなのはにとって見ればこの程度のことなど忙しい内には入らない。 だが魔法はあれど産業革命も情報革命もない上、実家が裕福である世界にいたルイズからすれば、なのは召喚以降の人生はまさに疾風怒濤であったといえよう。 ほんの一、二ヶ月のことなのに、まさに自分の人生が一変してしまっている。 「ねえ、なのは」 「どうしました? ご主人様」 「考えてみると、あなたと出会ってから、まだ大して時間経ってないのよね」 「ええ、そうですね」 ルイズはゆっくりと流れる景色に目をやりながら言葉を続ける。 「それなのに、あなたと出会ってからの方が、それ以前より長く生きているみたいな気がするわ」 なのははそれには答えなかった。 「……いずれあなたは私の元を去る。私にはあなたをあの子から離す権利なんかないわ。でも、お願い」 外を見たまま、ルイズは続ける。 「今回の戦いが終わるまでは、一緒にいてほしいの。叶うなら、もっとずっといてほしいけど、それは私のわがまま。でもね……この戦いが終わるまでは」 「帰りませんよ」 ルイズの言葉は、なのはによって遮られた。 「もちろん、選択の余地があれば、ですけど。それでも……もし、戦いのさなかにあの子かあなたを選べと言われたら……私は多分、あなたを選びます。決着が付いた後なら、あの子を選ぶとは思いますけど」 そしてそこで言葉を切るなのは。ルイズは振り向きもせず、外を見つめている。 そんなルイズの背後から、なのはの声がふわりとかぶさる。 「そしてそれが……唯一無二の機会だったとしても、です」 「……!」 言葉はなかった。いや、出なかった。 振り向きざまルイズは、なのはの胸に顔を埋めた。 「……本当のことを言うと、怖い……何もかもみんな。どうしていいかなんて、判んない。でも……あなたがいてくれれば、きっと乗り越えられる」 「……使い魔というのは、きっとそういう存在が選ばれるんですね」 掛けられる、あまりにも心に優しい言葉。だがルイズは、その内容とは裏腹の感じを、今のなのはから受け取っていた。 その違和感が、ルイズの心をしゃっきりとさせる。埋めていた顔を上げ、そらしていたなのはの方を見る。 そこにあったのは、予想通りというか予想外というか……静かな顔をしたなのは。 だがその静けさは、『静かな怒り』と表現されるようなのものであった。 喜びも恐怖も、全てが吹き飛ぶ、そういうたぐいのものだ。 現にルイズの心からは、そういった感情の何もかもが、まるで夢であったかのように抜け落ちてしまった。 ルイズは思う。もし、この怒りが向けられる対象が自分であったら。 おそらくは蛇に射すくめられる蛙のように、身動き一つ出来なることは間違いない。そしてそのまま、抵抗することすら思いつくことも出来ないままに呑み込まれてしまうのだ。 ルイズにははっきりとそれが判った。だが、それが『何故』かなのは判らなかった。 「ねえなのは、あなた、何に怒りを向けてるの?」 そう聞いたルイズに、なのはは何も答えなかった。いや、正確には直接答えなかった。 「人生、こんな筈じゃなかったことばかり。親友のお兄さんが言った言葉なんですけど」 静かな怒りが解け、ふっと優しい顔になるなのは。 「そしてメイジと使い魔、それは運命にも近い契り。そう『なるべき』存在なんですよ」 ルイズは少し混乱した。言葉の前後のつながりに、脈絡がまるで無い。それゆえ、なのはの言葉にあった、わずかな変化……『なるべき』の部分に、不自然に籠もっていた強調に気づかなかった。 「何言ってるの?」 「判らなくてもいいんですよ。というか、判っちゃいけないことなのかも」 そういうなのはの顔は、優しいものから哀しいものへと変わり、そして再びあの静かな怒りを湛えたものに戻る。 「そう、世間って、世界って」 そこで今度はなのはがルイズから視線を外し、外を見た。 それはルイズの目を見るのがつらかったのか、それとも外の『世界』を見たかったのか。 「こんな筈じゃなかったことばかり、なんです」 ルイズには判らなかったが、なのはがその言葉の意味する何かに怒っている。それだけは理解できた。 ルイズの知ることの出来なかった怒り。それは彼女の左手から発せられていたもののせいだった。ルイズの問いに対して心の揺れたなのは。彼女とて木石ではない。その問いには大いに悩むものがあった。 一応優先順位ははっきりしている。周囲の環境、お互いの大切な人を支えてくれる周囲の人物。この場合なのは自身の嗜好は優先順位が低い。職業病的な、任務優先、効率優先の思考だ。 だが、もしその選択が、ぎりぎりの状況で、かつ一度きりのものなら。 反射的にルイズを捨ててヴィヴィオを選んでしまう自分の存在も、彼女は自覚していた。 繰り返すが、彼女は木石ではない。若き乙女であり、そして母親なのだ。 問いに対して反射的にそういう思考を、なのはは浮かべていた。そして、その一連の思考に対して。 彼女の左手に宿ったルーンが、今まで以上の反発をしたのだった。 (“強大な思考干渉を感知、遮断します!”) レイジングハートが警告を発するほどの。 ルイズが自分の胸に顔を埋めていてよかった。なのはは本気でそう思った。 それを聞いた瞬間の自分は、決して彼女には見せたくないような、『悪魔』の顔をしていただろうから。 この瞬間、彼女ははっきりと理解したのだ。 使い魔のルーンが、当の使い魔の意志を無視して、その身を主に縛り付けるための『枷』であることを。 そしてこの世界全体を覆う、あまりにも希薄でありながら、あまりにもたちの悪い、世界を覆い尽くす『悪意』を。 いまだルイズには話していなかったが、なのははその『悪意』が存在する証拠を入手していた。 それはレイジングハートが、始祖のオルゴールから読み取った『虚無の魔法』であった。 そこに収められていた無数の魔法。なのははその魔法のことごとくに見覚えがあった。 ミッドチルダ式魔法。そして、近代ベルカ式魔法。 虚無の魔法の原典は、一部を除いて殆どがミッドチルダ式の魔法を元にしていた。そしてその運用形式は、近代ベルカ式に酷似していた。 近代ベルカ式は、形式の異なるベルカ式の魔法を、ミッド式で再現できるようにしたシステムである。古代ベルカ式の術法をミッド式に載せているのではなく、術そのものを再構成したようなものだが、効果においては共通である。 そしてなのはは、この世界において『始祖の御技』である虚無の魔法に、この両者に似たものを見いだしていた。 虚無の魔法は、他の系統の魔法と明らかに違いすぎた。 良くも悪くも、虚無以外の系統魔法は、このハルケギニアという世界と密着して存在していた。ハルケギニア世界において、この世界の特質を生かすために生まれた、ハルケギニアのための魔法である。 ビダーシャルやシルフィードが少し使うのを見ただけであるが、先住魔法もハルケギニアと密着していることには変わりはない。 シルフィードから聞いた話では、本来先住魔法は特定の『場』と契約して使う魔法だそうだ。そうでないのは彼女の使う『変身』のように、先天的に使える幾つかの魔法だけだそうである。 つまり、こちらもハルケギニアという地に密着している。 だが、虚無の魔法はそれから明らかに浮いていた。 空間転移、魔力侵奪、幻覚形成、時間加速、次元跳躍……一部にはミッド式でも理論上でしかないものもあったが、大半はなのはにも覚えがあった。 そして何より、『共鳴』『外部魔力操作』でそのほとんどが成り立っている系統・先住魔法に対し、虚無の魔法は明らかにミッド式やベルカ式と同じ、『魔力による事象改変』の流れを汲んでいる。詠唱や発動方法などは他の魔法に倣っているが、根本のあり方が明らかに違う。 それに加えることさらに、虚無の魔法の殆どは、破壊……それも、明らかにこのハルケギニアという世界に喧嘩を売るかのような方向に特化していた。ある意味閉じた世界であるハルケギニアの地、その殻をぶち破るような魔法が大変に多いのだ。 ルイズが覚醒しながらも初めの魔法である『エクスプロージョン』以外の魔法を使えないのも、おそらくはそれが原因だとなのはは思っている。 外の世界を知り、ミッド式の魔法を見慣れたなのはには簡単に思いつけても、この地の文化にひたっているルイズには、最初の発想そのものが出てこないのだ。 おそらくそちらの目覚めには、『必要とされる力を望むこと』が必要であると、なのはは思っている。現にもう一人の『虚無の担い手』である教皇聖下は、祈祷書から『ほしかったもの』である、『移動手段』を習得した。 これはなのはには大変になじみの深い『祈願型』の魔法構築に大変よく似ている。魔導式を組み上げるのか、膨大なリストから検索するのかの違いでしかない。 これらから類推されるのは、虚無の魔法は、虚無の担い手とは。 このハルケギニアという世界を打ち壊す、反逆の力なのだ。 そう考えると、幾つかのことがすっきりとする。 始祖の秘宝に秘められた文言。世界の管理者を自称するビダーシャルの言葉。 虚無の力は、本来この世界にあるべきものではない。遙か過去、この世界に漂着したプレシアさんのように、外からもたらされたものなのだろう。いや、ひょっとしたら。 (虚無の魔法は、プレシアさんが作り上げたものかも知れない) そんな思いすら浮かぶ。 なのははこう推測していた。 十年前のあの日、フェイトちゃんの目の前で虚数空間に落ちたプレシアさんとアリシアちゃんの遺体を収めたポッド。 本来助かる可能性などないはずのその試みは、奇跡ともいえる『当たり』を引いた。 それがこの地……ハルケギニアへの漂着。 ここでプレシアさんは、おそらくロストロギア級の何か……おそらくは生命操作に関する技術を見いだしたのだろう。水の精霊が再現した彼女の姿は、自分の知る者より若々しく、健康なものに見えた。本来のプレシアさんは、見た目よりずっと年を取っており、健康も害していた。水の精霊が語るような、『冒険者』的な生き方など出来るはずがなかったのだ。 だとすれば彼女はそれを解消する手段をここで見出したに違いない。 だが、その技術を持ってしても、まだアリシアちゃんの蘇生にはとどかなかった。だから探したのだろう、自分の手に入れたものを上回る『奇跡』を。 存在することは確信していたに違いない。そして、それは成し遂げられた。 水の精霊が言うのだ。この事に間違いはないはずである。 だがビダーシャルは、プレシアさんがスターライトブレイカーを使って、自分たちの住む地を滅ぼしたと言っている。 これも嘘ではあるまい。おそらくは何らかの対立があったのだ。 一番ありそうなのが、プレシアさんという存在自体。異端の排除だ。 次いでアリシアちゃんの蘇生。これがエルフ達の守る『禁忌』のようなものに触れたという可能性もある。 その他の可能性もあるが、ビダーシャルを初めとするエルフが、『世界の管理者』を自称する以上、その対立理由は『世界に対する脅威』もしくは『ルール違反』であるのは疑う余地がない。 そしてあまりにもフェイトちゃんに……言い換えればアリシアちゃんにもそっくりな『始祖の肖像画』。 このハルケギニアで、デジタル写真を残せるのは外部から来たものとしか考えられない。 固定化の魔法があるから、経年劣化の問題はない。 そう考えると、あまりにも恐ろしい推論が成り立ってしまう。 始祖ブリミルとは、ブリミル教とは。 今ハルケギニアに広まっているような心のよりどころなどではなく、 この世界に反逆するために、この地の民を駆り立てる狂信的なカルト宗教だったのではないか。 そう考えると、虚無の力と血統が王の象徴となっているのは、あまりにも皮肉としか言いようがなかった。 (本当に世界はこんな筈じゃなかったことばっかりだね、クロノ君) 使い魔とは、本来この地に住む動物を召喚するもの。絶対の『友』を呼び出すものなのであろう。 そこには悪意と言うより無邪気な意図しか感じられない。だが少なくとも『虚無』は。 その術式によって呼び出す存在を『人間』にし、あまつさえその意志を縛るためのシステムが存在している。 この意志を縛るシステムそのものは、使い魔のルーン共通かも知れない。ひどい話であるが、相手が野生動物であるとすればぎりぎり納得できなくもない。 シルフィードのような『意志ある幻獣』を召喚する例は少なそうであるし、そういう場合でも彼らは予備知識として召喚と使い魔のことを知っており、納得した上でそれに応じる。 だが、ルイズの場合は、虚無の場合は。 応えたのは確かに自分だ。あのとき確かに、自分の意志で自分は召喚の『鏡』に触れた。 だがそこにはなんの説明も予備知識もなかった。召喚システムは、いかなる方法かはともかく、虚無の使い魔にふさわしいと思われる『存在』を選別し、なんの説明も無しに召喚しようとしていたのだ。 そこには幾多の誤解と悲劇があったことが簡単に予想される。そしてそういう想いを強制的に抑圧するルーン。 利用したのか、組み込んだのかは判らない。だがそこには明確な一つの意志がある。 使い魔を『駒』として扱う意志だ。使用者でなく、制作者が込めた意図。 持てる全てを使って、世界に、世界の大きな『システム』に反逆する意志。 そこにどんな理由があったのかは判らない。 始祖ブリミルは、一体、何を思ってこの世界を壊そうとしたのか。それはさすがになのはにも判らない。 だがこんなことは、とうてい他人にいえたものではなかった。特に、純粋に世界を肯定しているルイズには。 世界を肯定するために自分を否定してしまうような面がルイズにはある。そんな彼女にこの事を告げるのは早すぎる。いや、出来れば一生言わない方がいい。 それにそもそも、肝心のことがなのはにもまだ判らないのだ。 この世界と、それに反逆した始祖。 そのどちらが『悪』だったのか。 世界か、始祖か、それとも両方ともか。 あるいはどちらも自分が正しいと思っていたのか……現実のように。 それが判るまでは、なのはにはどちらに対しても味方することは出来なかった。 そして想う。この推論をルイズに……ご主人様に話すことがあるとすれば、それは。 世界と始祖、その双方の意図を知った時であると。 そしてルイズの下した結論に、自分は従おうと。 そして複雑な思いと共にルイズ達を載せた馬車は、ルイズの故郷である、ラ・ヴァリエール公爵領に到着した。 なのはが、ルイズが悩む中、混乱する想いを持つものがこんなところにもいた。 次元航行艦・アースラ。 その作戦会議室で、クロノを初めとする首脳陣が一様に頭を抱えていた。 映っているのは高次元探査による、目的地と思われる世界の衛星軌道映像である。 サーチャーを先行させることも出来なかったため(ファーストコンタクトになってしまうので)、長時間かかって集めた次元波動……時空震のような、次元間を越えて伝わる振動波を解析・合成して、こうして目的地と思われる世界の姿を映像化することに成功した。 そこに移っていたのは、ごく標準的な惑星であった。だが、あまりにも異常な点が二点存在した。 一つは、その大陸配置であった。 あまりにもとある既知世界に酷似していたのである。 具体的に言えば、第97管理外世界、現地呼称『地球』に。 偶然とは思えなかった。同位世界・並行次元世界においても、こうまで地図が一致する例はない。 それは『誤差』……初期条件は共通であっても、そこに至るまでの間による時間が、可能性の分岐……変化を生み、それが世界の差になると、ミッドチルダの次元世界学では説明されている。 だが眼前の世界は、どう見てもコピーでもされたかのように、第97管理外世界そのものの姿をしていた。ちなみに座標が明らかに違うので、目の前の世界が地球である可能性はない。 そしてそれに加えてもう一つ。 『なあ……なんであんなものがあるんだ?』 初めてこの映像を見た時、クロノは思わずそうつぶやいていた。 報告によれば、『それ』は、現実に存在するものではないという。 『彼の地に実在するのは、今見ている映像ではなく、無数のモニュメント……石で作られた、一見意味のない彫像や都市遺跡のように見えるでしょう。サーチャーを送って、光学手段によって観測したのであれば、我々にもあれは見えないはずです』 『高位次元から、次元波動を使って観測した時にのみ、見える映像、か……』 『はい。次元探査波の反響に対して成立する、ホログラフのようなものです』 その時の報告を思い出しながら、クロノは映像を見る。 ちょうどユーラシア大陸を中心とした地球の映像。こちらで言うシベリア中央部辺りに、『それ』は存在していた。 緑の森を背景に浮かび上がる白い文字。それは現実に存在するものではなく、次元探査波動を解析し映像化した時に、ノイズの集合体として初めて浮かぶものらしい。 言語は神代ベルカ語。これはミッドチルダ語を英語、ベルカ語をドイツ語にたとえるとすれば、ちょうどラテン語に当たるような言葉である。この二つに限らず、次元界で使われている言葉の源流とされるもので、現在では殆ど残っていない幻の言語である。 現存しているのは、聖王教会において存在する聖書の『原典』位である。 「でもなんであんな言葉が、こんなロストロギア級の技術を使って書かれているんだ?」 「判るわけありませんよ……まるで観光地の看板だ」 次元波動に対するホログラフ干渉紋様を、巨石という物理的実体を使って形成するなど、とんでもない技術の無駄遣いである。 そうまでして描かれたもの。画面に映った文字。 その内容を私たちの言葉で言うと、次のようなものになる。 ようこそ、“ハルケギニア(幻想郷)”へ! 前ページ次ページゼロと魔砲使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2858.html
ゼロの悪魔召喚師 第三話 <流星> 「じゃあ、すまないがミス・ヴァリエール彼を借りていくよ」 もうすぐ食事の時間なのになぁ やっと落ち着いてきた俺は、軽口がたたけるくらいになっていた 先ほど見せた携帯にそんなに興味があるのだろうか? 確か俺のご主人様であるルイズ・ル・ブラン……そっから先は忘れたが、不満そうな顔でこっちをみてくる 相手の気分を判断したほうがいいぞ、中年教師 ずりずりと引きずられたどり着いたのは巨大な塔の前 「ここは火の塔と言ってですな、さっきまでいたのが本塔、その回りにこのようにして5つの塔があるんだ。それぞれ土・水・火・風・虚無を現しているのですよ」 世界を構成する四元素か、ゲームやアニメで見たことがあるなぁ それにしてもなぜに、そんなに笑顔なんだ?笑顔のたたき売りができるぞ とはいえ顔には出さない、ノモスでの交渉経験は伊達じゃないぜ 顔に出るようでは足元を見られた挙句に、襲われるからな まさに鉄壁のポーカーフェイスさ 「四元素はわかるのですが、虚無とは何ですか?」 「それは伝説の属性でいまだに何か判らないのですよ」 伝説ねぇ…経験からするとろくでもないものだな、きっと 俺は火の塔と本塔の間にある掘っ立て小屋の前までつれてこられた デカイ物置小屋?しかも凄く汚い、匂いもガソリンスタンドと理科室を足したような… 「ここが私の個人的な研究室です、どうぞ」 言わなくてよかった、気づかなくても危険を回避する俺 流石は俺だ! 「じゃあ、先ほどの携帯電話やその腕の小手の説明をしていただきたいのですよ」 そういいながら席を勧めるコルベール ここが応接間みたいなものか?外も汚いが中も汚い、正直空き巣が入ったと言われたら信じるくらい物が散らかっている 「その前に、使い魔の契約について詳しく教えてもらいたいのですが」 「じゃあ、そちらから先に教えよう。少し待っていてくれたまえ」 そういい残して、奥に消えて行くコルベール 「まぁ研究室なんでね、水しかないけどいいかな。もう少ししたら食事も持ってきてもらえるように頼んである」 うん、完全に持久戦の構えだな、キャッチセールか?新手のキャッチセールなのか? 「使い魔は第一に主人の目となり耳となること、第二に主人の求める秘薬を持ってくること、第三に主人を守ることだ」 そういってコルベールは説明を始めた 「一つ目は感覚の共有だな、二つ目は魔法の補助に使うもの…例えばコケとか硫黄とかを採ってくることだ 三つ目はまあ、そのまま危険から守ることだ」 一つ目は止めてほしいな、思春期の高校生ですよ?おれは 二つ目は場所と物がわからなければ無理だろうが、仲魔の力を借りればどうにかなるな 3つ目はノモスならともかく、ここでの悪魔の強さなんてわからんしな それと重要なことを聞かなければ 「契約期間はどれ位なんですか?」 「どちらかが死ぬまでだよ」 死ぬまでって!?聞き間違いで有ってほしい 「死ぬまでって」 「そのままの意味だよ、メイジにとって使い魔は神聖なものだからね」 情報が必要とはいえ、コイツは想定外 「悪魔と契約してるほうがましですね…ここは魔界ですか?」 「残念ながら現実だよ、魔界なんてあるわけないじゃないか」 にこやかに答えるなぁ!! 目の前も思考もブラックアウト よいではないか…いざとなればこの世界を狂気に染めればよいのだ… 俺は魔界に帰りたいんだよ、イカタコ軟体 神のいない世界で新たな秩序を作ればいい 秩序も何もこの世界の事自体何もわからんわ 全て破壊すればよいのだ お前はピナーカ振り回すな、つか暴れたいだけだろ 在るがままに受け入れ、我とともに悟りを開くのだ そこまで悟れてないわい ハッ!! 思わず脳内妄想会議を開いてしまった バットトリップしてるときじゃない …いざとなったら秘孔針>地返しの玉>魔石だな 人生に開き直りは必須さ ハッ!! 思わず脳内妄想会議を開いてしまった バットトリップしてるときじゃない …いざとなったら秘孔針>地返しの玉>魔石だな 人生に開き直りは必須さ 流石に俺がかわいそうになったのか、コルベールが声をかける 「そう悲観的にならなくてもいい、ミス・ヴァリエールは君を大切にしてくれると思うよ」 「召喚されたときの対応からしてそれはない」 思わず地が出るが、かまわず否定しておく 「そ、それではこの携帯電話のことや日本、ノモスのことを教えてくれ」 話題を変えてきたか、使い魔の扱いはそんなものか 気を取り直していこう、焦ってもしょうがないしな 日本のことはともかく、ノモスは魔界にあります。なんて言ったら間違いなくアレな人だろ そういうことで 日本に住んでいたけどノモスに留学した そこでほかの国から侵略者が来て逃げ出した それがどこの国から来たのかは分からない ノモスではマジックアイテムの勉強をしていた アモンという人物に転移魔法をかけてもらい、日本に戻るつもりが着いたのはここだった という差しさわりのない内容に変更しておいた これならマジックアイテムをもっていても変じゃない…はずだ、たぶん 「ほうほう、それではノモスのマジックアイテムを見せてくれますかな?」 COMPを起動しアイテムを取り出す マハザンストーン、マハジオストーン、ハブフストーン、マハラギストーン、魔石、宝玉そしてデザートイーグル 「こ、これは…」 「侵略者から逃れるために攻撃的なのが多いですね」 ひとつひとつ手にとって興奮しながら観察している 流石にM134バルカンやM249は出していない、アレは逃げるためのもじゃないからな 「それにどうやってその小さな小手から!?」 「詳しい仕組みはわかりませんが、デジタルデータ化、分解・合成しているらしいです」 この機能で重い武器や多くの弾薬、アイテムを持ち歩いていたんだ ちなみに装備品もデジタルデータ化することで着替えることなくその性能を発揮させるんだ ステータス画面ではいつも制服のままだったろ、それはこういうわけなのさ もちろん防具だけだ、剣や銃は必要に応じて実体化させるんだ 「アイテムもすごいが、この銃は連発できるのか!」 「ええ、一応は」 「しかし……これでやっぱり身を守る為とはいえ人を殺めたのかい?」 流石にいやな顔になったな、少なくとも戦闘経験があるように見えたが? 「いえ、そういう時は神経弾を使いました」 「何だねそれは?」 「相手を眠らせる弾丸です。殺すのを避けるために使いました」 いや、実際は眠らせながら殺してたりするんだけどね 「殺さないように戦うか……」 考え込んでしまっているな トントントン 誰かがドアをノックしているよ~、気付いてよ~ お腹減ったよ~、ご飯の時間だよ~ だめだ、全く気がつかないな 仕方がないのでドアを開けると 「あ、あの食事を持ってきました。」 湯気の立っている食事を持ったメイドが立っている メイドかよ…完全に中世だな… 巨乳だな、一瞬で観察すると(胸しか見てない)メイドから食事を受け取り礼を言う 「ありがとう」 「いえ、仕事ですから」 そういうとメイドは小走りに行ってしまった 巨乳のメイドから受け取った食事をテーブルの上に載せる 「食事にしましょう、先生?」 へんじがない、ただのしかばねのようだ しょうがないな、魔法の言葉を使うか 「そのマジックアイテムは差し上げますから食事にしましょう」 「いや、すまないね。何からなにまで」 ほら動いた、やっと食事ができるな 「後で私の研究を君の視点から見てくれ、それで君の感想が欲しいんだ」 俺はその後…就寝時間寸前まで解放されなかった……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1926.html
貴族派に取り囲まれたニューカッスルにて、結婚式を行おうともちかけたのはワルドである。 ルイズは即座に応じたのだが、こうして式を執り行おうとしたその時になると、突如として杖を振り、ワルドを吹き飛ばしてしまったのだ。 「わたしと本気で契りたいのならば、その杖は不要のはず! 目出度い婚約の儀に武器を持ち込むとは、ワルド、あなたはわたしと結婚するつもりなんてないのね?」 「ち……違う。僕は……決して、そんなことは」 「ルイズにはお見通しよ。さあ皇太子殿下。この不埒者はわたしが成敗いたします」 「ど、どういうことなのかね」 ウェールズも困惑しているが、ルイズだけは並々ならぬ自信の炎を目に宿らせ、続けた。 「先日の夜わたし達を襲撃した白仮面の男、あの男とワルド、あなたはまったく同じ人物だったわ」 「か……顔は見えなかった。僕にはそんなことは……」 「顔などたった一要素に過ぎないわ。かたち、魔法の使い方、筋肉の流れ、におい……全てあなたと白仮面は同じ。 そしてあなたは風のメイジ! 遍在を使えることは間違いないなり!」 「な、なり……?」 ワルドは身の震えを抑えながら、目の前のあの小さなルイズに問いかけた。 段々変貌しているような、そんな気のする相手だが…… 「ルイズ……昔の君はそうじゃなかった。一体何が君を変えてしまったんだ?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 叫んでルイズは杖を振り上げる。 「不退転戦鬼、ゼロのルイズ! 散さまになりかわり、無礼者ワルドに天誅を下すなり!」 「ハララ……あの使い魔か……」 「ゼロ式魔法防衛術! 爆破!」 なんのことはない、いつもの失敗魔法である。 しかしルイズの精神力がことのほか充実していたためか、ワルドを凄まじい威力が襲う。 「ぐおっ!? ルイズ、残念だよ、君を仕留めなければならないだなんて」 「戯言は不要! 爆破!」 容赦の無い魔法であった。 流石にこれはたまらないと、ワルドはすぐさま詠唱を行う。 ルイズの爆発をかいくぐって、四体の遍在が姿を現した。 「さて、僕の……っく」 「爆破!」 本当に、無駄口を叩いている暇はなさそうだ。 それでも、この爆発。確かに威力も速度もなかなかのものだが、まだまだ戦闘のプロであるワルドには及ばない。 しかも遍在もいるのだから、ルイズの隙をついての魔法など容易いものだ。 (僕の小さなルイズ。君にはそんな杖を振っている姿など、似合わないよ……) いくらかの愛惜を覚えながら、ワルドの、ルイズの死角にいる遍在が詠唱を終える。 ウィンド・ブレイクにて、ルイズを仕留めるのだ。 「さようなら! ルイズ!」 「……うぬ!」 死角からの痛打! 小さなルイズは、その猛烈な風の打撃にたちまち吹き飛ばされた。 礼拝堂の壁に叩きつけられ、ずるりと床に崩れ落ちる。 「使い魔は選ぶべきだったね、ルイズ。……では改めてウェールズ殿下。お命頂戴いたし……」 「爆破!」 倒れたはずのルイズは、そのワルドの思惑を容易く打ち砕いた。 強烈な打撃により、骨のいくつかも砕けたはずである。 事実、ルイズの口元から血が零れ落ちている。しかしルイズはそれをものともせず立ち上がっているのだ。 「ぐ……」 不意を衝かれたワルドだったが、今の爆発も致命の一撃には程遠い。 改めてルイズを見るに、最早ボロボロで戦えるようには見えなかった。 「やめておきたまえ。ルイズ、せっかく助かった命を散らすこともないだろう」 「戯言は不要と言ったはずよ! 爆破!」 「昔から……意固地になると君は聞かなかったね……!」 もう一度、ワルドとその遍在は詠唱を行う。 五方向からのウィンド・ブレイクである。一撃ですら容易に人の命を奪えるというのに、それが五つ重なったとなれば…… 「今度こそ! さらばだ、ルイズ!」 「……! 爆破!」 ルイズを中心に巨大な爆発が起こった。 ウィンド・ブレイクを防ごうとして果たせなかったのだろうか。 風の魔法とこの爆発によって、今度こそルイズは砕け散った……そうワルドは思ったのだが。 「ぬ……微温いわ、ワルド! それでもスクエアのつもりなの!?」 「ル……ルイズ。君は、そこまで……」 なんと。ルイズは、全身に傷を負い、滂沱の如く血を流しながらも、なおも立ち上がっていた。 鑑みるに、五方からのウィンド・ブレイクが自身に命中するその一瞬前、自らに爆発を放ったのであろう。 爆発によってウィンド・ブレイクの威力は相殺され、こうしてルイズは生き残ったのだ。 しかし体内に爆破を行ったのである。ルイズの内蔵も最早ズタズタのはずであった! 「君は、君はそこまでして戦える人ではなかったはずだ! 何故だ! ルイズ、何故こんなにも!」 「全て散さまのお陰!」 そう、ルイズは散に絶対の愛を捧げていた! 使い魔として召喚し口付けを受けた、あの散に! 散の言葉によってルイズは、ゼロの名をおぞましきものから栄光の名へと変えたのである! ――ルイズよ! 零式とは最強の武術の名なり! ならばゼロのルイズとは! ――はい! ゼロのルイズとは最強の魔術師の名にございます! ――その通りだ! 「この身は既に散さまのものなれば、爆破しても死にいたるはずがなし! ワルドごときの魔術恐れるに足りないわ!」 「そう……か。そこまであの使い魔に入れ込むとはね……」 気力のみでここまで戦えるルイズに、ワルドは戦士としての畏敬の念を抱いた! 裏切ったとはいえ魔法衛士隊長である! 武人として一流の血がその念を呼び覚ましたのだ! 「ならばこれで本当に最後にしよう。尊敬を込めて君を仕留める」 遍在もろとも、揃って杖を構える! 刺し貫く魔法、エア・ニードル! 近接戦の必勝形であった! 「僕の手で直接仕留めることが君への手向けになるだろう。いくぞルイズ!」 「来い~!」 血まみれのルイズが吼える! それに呼応するように遍在は揃ってエア・ニードルを構え、突撃した! 瞬間! 「この刹那を待っていたわ!」 「なんだと!?」 全てのエア・ニードルがルイズに突き刺さる! しかし同時に、全てのワルドがルイズを中心として動きを止めていた! 「不退転戦鬼たるもの、実力の及ばぬ相手に抗する技はひとつ! 肉弾幸なり!」 「バカな! ルイズ、君は!」 ルイズ渾身の爆発である! 数瞬後、目を開けたウェールズが見たものは、崩れ落ちるルイズとそれを支えるアンリエッタの姿であった。 「ア、アン!? どうして君がここに……」 「ルイズの莫迦!」 アンリエッタはルイズの頬を張った。 気絶していたルイズがうっすらと目を開ける。 「ひ……姫殿下」 「このような局面で肉弾幸を使い、散さまが喜ぶと思っているの!?」 「アン、散さまって……」 ウェールズの呟きは無視された。 「ルイズ。本懐を遂げるにはまだ早すぎるわ」 「で……でも、ワルドが……」 「ワルドごとき散さまの敵ならず! 狙うは大将首でしょう! 走狗相手に相果てたところで何になるのですか!」 「あ……ああ……!」 ルイズは涙を流していた。 「不甲斐なしやルイズ! 命の使いどころを誤ってはなりません!」 「ああ……姫殿下。わたしは散さまに申し訳のつかないことをするところでした」 「分かればよろしいのです。では! 此度の戦果、ともに散さまにご報告いたしましょう!」 手に手を取って帰ろうとするルイズとアンリエッタ。 流石にウェールズは聞いてみた。 「アンリエッタ……昔の君はそうじゃなかった。一体、何が君を変えたんだい?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 「あ、やっぱりそっすか」 ルイズはコントラクト・サーヴァントの折に燃える口付けを。 アンリエッタはルイズの部屋に忍んで来た夜、燃える口付けを。 双方受けたため、この有様となったのであった。 「ふふふ……元はと言えばルイズもアンリエッタもこの散を召喚した魔法国の王侯貴族! しかし散の燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのだ!」 美 し さ は 兵 器 ゼロのススメVoltex 完
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/432.html
「ゼロのルイズ」(前編) ◆LXe12sNRSs 「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。 涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。 そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。 ……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。 恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。 その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。 異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。 「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」 「な、なんでアンタがここにいるのよ!」 「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」 「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」 晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。 少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。 そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。 召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。 「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」 「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」 場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。 その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。 「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」 「? 遠くないってなにが?」 「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」 「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」 「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」 「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」 茹蛸みたいに顔を火照らせて、ルイズは少年の耳を力いっぱい引っ張った。 ……何故だろう。この少年の前に立つといつもこうだ。 言いたいことが言えなくて、発言を失敗するたびに胸が締め付けられるように苦しくなる。 病のようで怪我のようで、そのどちらでもなくて。 ルイズは純真な瞳に笑う少年の素顔を映し、正体の掴めぬ感情に胸を焦がすのだった。 「……ったく、こんなガサツで乱暴な性格だから、みんなに『ゼロのルイズ』なんて呼ばれるんだよ。少しはシエスタとかを見習えよな」 「そ、それは昔の話じゃない! っていうかなんでそこでシエスタの名前が出てくるのよ!」 「え? い、いやぁ~なんでだろうなぁ……ハハハ」 冷めた笑いではぐらかす少年の胸ぐらを揺さぶりながら、ルイズはまた怒り出す。さっきから顔を真っ赤にさせっぱなしだった。 ……少しは素直にならないとね。 表の思考ではなく、本能でルイズはそう思った。 このまま意地を張ってばかりでは、いつかきっと後悔してしまう……そんな予感を本能が感じ取っていたから。 「……もう、ゼロのルイズなんかじゃない」 「分かってるよ。ルイズはもう立派な――」 「そうじゃない! そうじゃなくて……その……私には…………才人、がいるから」 「へ? オレ?」 おどけた表情で言葉の意味を探る少年に、ルイズは依然赤面したまま、思いの丈をぶつける。 「……私には、『才人』がいるから! だから……だからもう『ゼロ』じゃない。才人が、才人さえいれば私は……」 意を決した反動で涙まで流す健気な少女に、少年――平賀才人は優しく微笑み、その小さな頭にそっと手を置いた。 ◇ ◇ ◇ 今宵の城は、漆黒ではなく真紅に染め上がることだろう。 爆砕か、炎上か、血染か、それとも――真紅を超越した『虚無』か。 「我が名はルイズ! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 杖である戦鎚を振り、唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!」 サモンサーヴァントだけは自信があった。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 あの召喚の儀式の日が、全ての始まりだった。 「私は心より求め、訴えるわ!」 ルイズと、才人の。 「我が導きに、答えなさい!」 運命の出会い――。 『…………まずは悲しい知らせから――!』 バトルロワイアル会場の中心地に位置するホテルという名の巨城。 その最上階にて、ルイズはグラーフアイゼンを振るい、破壊の力を行使する。 爆音が木霊し、壁が、天井が、床が崩壊。ほぼ同時に始まったギガゾンビの定時放送すら、その轟音で掻き消した。 横に、縦に、斜めに自由自在に振り回し、まるでウサ晴らしをするようにありったけの魔力をぶち撒ける。 これまでの激戦で損傷が進んでいた巨城はすぐにその身を揺るがし、ボロボロと破片を零していく。 『――涼子、前原圭一、竜宮レナ、古手――』 放送は既に、ルイズの耳には入っていなかった。 ギガゾンビの声を掻き消すほどの音も原因の一つだが、ルイズにはもはや、誰が死のうがどこが禁止エリアになろうがどうでも良かったのだ。 ホテルを壊して、目に入った人間は殺して、グリフィスの下へ、才人と一緒に帰る。 それだけ。たったそれだけで、才人は帰ってくる。 誰にも邪魔はさせない。朝倉涼子も問題じゃない。 才人と一緒にいれば、なんだって出来る。 だって才人は、ルイズが召喚した世界でたった一人の平民の使い魔だから。 神聖で、美しく、そして強力なゼロの使い魔だから。 「私はもう――ゼロじゃない!」 懐に忍ばせておいた才人の眼球を取り出し、屋外へと飛翔する。 天高く舞い上がったルイズは手の平に才人を転がし、同じ視点で崩壊していくホテルを見下ろした。 未だ鳴り止まぬ轟音は、依然として破壊が続いている象徴でもある。 スプーンで半分だけ掬ったアイスのように、ホテルは中途半端な半壊状態を迎えたところで鳴動を止めた。 このコンクリートの巨城は、ルイズにとっては砂の城だ。 そう形容するくらいに脆く、崩れやすく、壊しやすい。 才人と再び出会うための、単なる糧に過ぎない。 「見て、才人。お城が崩れていくわ」 地上から舞い上がってくる突風を受けて、ルイズの桃色の髪が揺れた。 生気を宿さない眼球は何も言わず、ただ死んだ瞳に崩壊寸前の巨城を映す。 「召喚魔法は一生で一度きりのもの。使い魔は生涯添い遂げるべきパートナー。私にはもう、才人しかいない」 ルイズが召喚した使い魔は、人間だった。 ルイズが召喚した使い魔は、平民だった。 ルイズが召喚した使い魔は、才人だった。 「もう一度やり直そう、才人。あの召喚の儀式から、私たちの出会いから――」 グリフィスはそれを叶えてくれる。 壊して、殺して、ぶっ壊して、皆殺しにすれば、才人は戻ってくる。 ルイズはグリフィスの虚言に一欠けらの疑念も持たず、ただ単純に――すごい、と思った。 「帰ろう、才人」 ――そこにはいないはずの才人と交わす、二度目のファーストキス。 突き出した唇は空を捉え、ただ唯一といえる彼の象徴は、何も返してはくれなかった。 今は、まだ。 でも、これが終われば、きっと。 グラーフアイゼンを頭上高く振り上げ、彼女の内に眠る潜在魔力を解放させる。 生み出された特大の鉄球の数は、一発。その一発に、ルイズの魔法の特性である『虚無』の力を加える。 「これが、決まれば!」 鉄球を狙い、グラーフアイゼンを当てんと振り被る。 虚無により強化された、本来の使い手であるヴィータのものを越えるシュワルベフリーゲン。 命中すれば半壊状態のところで食い留まったホテルも爆発と共に弾け、辺り一帯は焦土と化すことだろう。 そこに、ルイズ以外の生存者はいない。 「――っぉわれろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 呂律の回らない口ぶりで叫び、ルイズはグラーフアイゼンを振り下ろした。 「やめなさあぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「――ッ!?」 鉄槌が鉄球を穿つ――その直前だった。 ルイズの横合いから飛び込んできた黒い斧が、振り下ろされたグラーフアイゼンを弾き、同時に鉄球を空高く打ち上げた。 ホテルを狙うはずだったシュワルベフリーゲンは空中で花火のように霧散し、黒味がかってきた空を茜色に染める。 バランスを崩したルイズはなんとか体勢を立て直し、謎の乱入者へと矢庭にハンマーを向けた。 その場にいたのは、ルイズと同様に魔法の杖を持った、飛翔する女の子。 白を基調としたロングスカートは、平凡な小学三年生の女子児童が思い描く、典型的な魔法少女の兵装。 胸元で結ばれた大き目のリボンが際立ち、またそのリボンのイメージとは対極に位置する厳格な瞳を、ルイズに向ける。 「なによ……なんなのよアンタ!」 歳相応とはいえない殺気の込めれらた睨みを利かせ、ルイズは少女を牽制する。 だが少女はそれをものともせず、怯むでもたじろぐでもなく真っ向から視線を合わせていった。 純白の清楚なバリアジャケットに、使役するは親友が愛用していたインテリジェントデバイス。 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――その名は、バルディッシュ・アサルト。 そして使い手は、『魔砲少女』、『管理局の白い悪魔』など、呼び名を悪名の如く周囲に認知させ、若輩を意識させないほどの実力を持った一流の魔導師。 「高町なのはとバルディッシュ・アサルト――これ以上の破壊は見過ごせない!」 杖とは形容しがたい戦斧を構え、飛翔する少女は高らかにその名を宣言した。 ――狂った。邪魔が入って、何もかもが狂ってしまった。 直感でなのはを外敵と捉えたルイズは、奥歯を噛み締め、憤怒の思いを逆巻く風に乗せた。 あと少し、あと少しで終わったのに。いつも、いいところでいつもいつもいつも、邪魔が入る。 「どうしてホテルを破壊しようとするの? それに、なんであなたがヴィータちゃんのグラーフアイゼンを……」 「……キュルケにシエスタに、アンリエッタにタバサ……こっちに来てからは朝倉涼子! みんな、みんな才人と私の邪魔をする!」 慟哭を鳴らし、ルイズが雄叫びを上げた。 子供とも女とも思えない、獣性を帯びた咆哮はなのはを唖然とさせ、身を引き締めさせた。 同時に、虚無の力を更に行使する。 グラーフアイゼンにこれでもかというくらい魔力を込め、その形状を変えていった。 ハンマーヘッドの片方に推進剤噴射口が現れ、もう片方にはスパイクが取り付けられる。 通常のハンマーフォルムに比べ、近接戦闘に特化した変形形態ラケーテンフォルム。 『鉄の伯爵』と呼ばしめる戦鎚型アームドデバイス、グラーフアイゼンのもう一つの姿である。 「殺して、壊すだけで終わるの! だから、だから……だから大人しく殺されなさいよぉぉぉぉぉ!!!」 『Raketenhammer』 貴族の優雅さなど欠片も見せず、ルイズは感情のままになのはへと突進した。 ロケット噴射による推進力がルイズの速度を加速させ、回転。遠心力も味方に付け、グルグルと円盤のように回りながら大気を巻き込む。 なのはは咄嗟に防壁を張るが、グラーフアイゼンのラケーテンハンマーは基礎的なプロテクションなどで防げるものではない。 (すごい勢い……! ひょっとしたら、ヴィータちゃん以上――!?) 絶大な威力を防ぐには敵わず、魔力防壁はガラスのように砕け、飛び散った。 破壊力は強大でもそのコントロールはまだ不完全なのか、空中でグルグル回り続けたままのルイズの隙をつき、なのはは距離を取る。 「バルディッシュ、お願い!」 『Haken Form』 なのはの声に答えた機械音声がスイッチとなり、バルディッシュ・アサルトの形状を変えていく。 変形前を斧と言い表すならば、この変形後のハーケンフォームはその名の通り鎌。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルム同様、近接戦闘に特化した直接攻撃タイプの形態である。 「うわぁあぁああああぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁぁ!!」 力任せに突っ込んでくるルイズはグラーフアイゼンを使いこなしているというより、武器として利用しているだけのように思えた。 デバイスと意思疎通を図り、共に戦略を組み立てるなのはとレイジングハートのような関係とは違う。 グラーフアイゼン本来の使い手であるヴィータ以上にムチャクチャな攻撃方法――それを見て、なのはは再度思う。 ヴィータは、いったいどうなってしまったのだろうか。 主である八神はやての死亡と同時に、彼女の守護騎士であるヴィータとシグナムの二人も消滅したものだと思っていた。 しかし先ほどのホテル倒壊と同時期に行われた放送――告げられた死亡者の中には、確かにヴィータの名前があった。 真相が分からない。シグナムはまだこの世界に存在しているのか、ヴィータは誰かに殺されてこの世から消えたのか。 ルイズの持つグラーフアイゼンに訊けば、何かが分かるかもしれない。が、今はまだ。 そもそも、悲しんだり考えたりする暇はないのだ。 (ホテルには、まだみさえさんやガッツさんがいる。これ以上壊させるわけにはいかない……全力で止めてみせる!) なのはは向かってくるルイズと真っ向から対峙し、加速するハンマースパイクをバルディッシュの刃で受け止めた。 圧し掛かってくる力は過去ヴィータと交戦した時と等しく、重い。 でも、挫けたり諦めたりすることはできない。普通の少女みたいな甘えは、なのはには許されない。 守りたいものがある。友達と、仲間の、大切な命。失うわけには、いかない! 「死ね! 死ね! 死になさいよォォォォォ!!」 「……ぜったい、ダメェー!」 何度も何度も打ち込まれる鉄槌を、バルディッシュの一薙ぎで全て振り払った。 どうにかしてルイズからグラーフアイゼンを奪取し、無力化しなくてはならない。 故になのはは不得手な近接格闘戦に挑むが、使い慣れない鎌は振るうだけで疲労が溜まる。 そのため、隙も生じやすい。 「!」 がむしゃらに振り回され続けてきたグラーフアイゼンが不意に軌道を変え、なのはの顎下を狙ってきた。 バルディッシュの間合いを縫うように潜り込まれた一撃は、バリアジャケットに包まれていない頭部を掠めようとしている。 反射的に身を引いてそれを回避するが、そこからさらなる隙が生まれてしまった。 横合いから、真っ直ぐな軌道で振るわれるグラーフアイゼン。 バルディッシュのか細い柄がそれを防ぐが、発生した衝撃はなのはの小柄な身体を容易く吹き飛ばした。 流星のように煌びやかに、暗闇を帯びてきた市街地へとなのはが落下する。 受身として即席の防御魔法を展開するが、それでも落下の勢いを減少させるほどの効果しかなく、音を立ててビルの壁へと衝突した。 「――っいたた……大丈夫、バルディッシュ?」 『Yes, it is safe』 「にゃはは……やっぱり、フェイトちゃんみたいにうまくはいかないね」 コンクリートでできた壁に激突――常人、しかも小学三年生の少女ともあれば、笑って済ませられるものではない。 だがなのはは、普通なら大怪我のところを掠り傷程度で抑え、バルディッシュも目立った損傷はなかった。 戦いは始まったばかり、これからが本番。泣き言を言う暇も、言うつもりも、なのはとバルディッシュにはない。 (接近戦で対応するのは不利……かといって遠距離攻撃を仕掛ければ、あの子はシュワルベフリーゲンで攻撃してくる。 もし流れ弾が一発でもホテルに命中すれば、中にいるみさえさんたちが危ない……なら!) なのは立ち上がり、再び飛翔した。 空中で待ち構えていたルイズは未だ牙を剥き出しにした状態。 戦意を治めず、むしろ高ぶらせて、まずは目の前の邪魔者を排除しようと躍起になっていた。 ホテルからの注意は逸れている――引き離すなら、今がチャンス。 「あとで絶対、お話は聞かせてもらうから。でも今は――」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 再び突進してきたルイズに対し、なのははバルディッシュで受けようとも範囲攻撃で反撃しようともせず――身を翻し、急加速で撤退した。 頭に血が上っているルイズは逃げる敵に意識を奪われ、闘争本能のままになのはを追跡していく。 高速で飛行する魔法少女が二人、戦地をホテルの外周へと移す。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-6・上空/一日目/夜】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:精神完全崩壊/グリフィスへの絶対的な忠誠/全身打撲(応急処置済み)/左手中指の爪剥離 [装備]:グラーフアイゼン(ラケーテンフォーム)(カートリッジ二つ消費)@魔法少女リリカルなのはA's [道具]:平賀才人の眼球 [思考・状況] 1.殺す(なのはを) 2.壊す(ホテルを) 3.生き返らせる(才人を) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:全身に軽傷(掠り傷程度)、友を守るという強い決意、やや疲労 [装備]:バルディッシュ・アサルト(ハーケンフォーム)(カートリッジ一つ消費)@魔法少女リリカルなのはA's、バリアジャケット [道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式 [思考・状況] 1:ルイズをホテルから引き離し、無力化する。 2:グラーフアイゼンを奪取し、ヴィータがどうなったかを訊く。 3:シグナムが存在しているかを確認する。 4:フェイトと合流。フェイトにバルディッシュを届けたい。 5:はやてが死んだ状況を知りたい。 6:カズマが心配。 ◇ ◇ ◇ 破壊神が通り過ぎた跡は、それはそれは無残なものだった。 八階建てという、高く堅牢な誇りを掲げていたホテルという名の巨城は面影もなく崩れ落ち、今や元の半分、四階フロアまでを残すのみとなっていた。 五階から上は既に残骸として地に落ち、周囲に散らばっている。 ガッツや野原みさえがホームとしていた三階フロアも、上の階層から雪崩れ落ちてくる天井やら何やらによって、凄惨な有様となっていた。 壁に穴が空いているのも別段珍しくはなく、中からでも日の落ちた世界が一望できる。 崩れゆく鳴動は止まった。だが、これで崩壊が終わったとはとても思えない。 三階フロアの天井は現在進行形でパラパラと崩れ落ち、なおも残骸の数を増していっている。 いつのことだったか――野原みさえは、家族の住まうマイホームがガス爆発により崩壊した時のことを思い出した。 あれは一瞬の内に弾け飛んだ分ジリジリと迫る恐怖は感じ取れなかったが、このホテルの状況は違う。 いつ来るかは分からないが、いつか必ず来るであろう完全倒壊の時。一秒後か、一分後か、一時間後か、考えるほどに怖くなってくる。 関東大震災などがこんな感じだったのだろう。日頃テレビのニュースで見る被災者の方々の気持ちになり、みさえはその身を震わせた。 「ガッツ……それに、ゲインさんやキャスカさんは……?」 身体が満足に機能するのを確認した後は、改めて周囲を見渡した。 確認できるのは、乱雑に散りばめられた瓦礫の山々のみ。ベッドやら電話やら冷蔵庫やら、室内にあったはずのものは全て埋もれ、その姿を隠している。 見当たらないのはホテルの備品ばかりではない。ガッツやベッドで寝ていたはずのゲインもまた、その影をどこかに潜めたままだった。 まさか、彼等も生き埋めになってしまったのだろうか……渦巻く嫌な予感に駆り立てられ、みさえは足場の整わない残骸の上を歩く。 「あっ……痛ッ!?」 そこでようやく、自分の足が負傷しているという事実に気づいた。 瓦礫の破片に足を躓かせ、転倒。原因となった左足は青く膨れ上がり、今頃になって痛みを訴えかけてくる。 どうやら軽い打撲のようだ。これしきの怪我、ホテルの負った被害状況を考えれば随分と程度が低い。 みさえは意識を奮い立たせ、立ち上がろうと力を込める。その背後から、 「フリーズ。動くなです人間」 土埃に塗れた人形が、銃を突きつけてきた。 「あなた……どうして!?」 「まったく、あんな大爆発が起こったっていうのにしぶとい人間ですぅ。まぁ、そのおかげで翠星石も自由になれたわけですけど」 その人形――翠星石は、取り上げたはずの銃を構え、今にもみさえの後頭部を撃ち抜かんと牽制している。 「爆発……? 爆発って……あ」 翠星石の言葉で、みさえはようやく思い出す。 あれはたしか六時丁度、ギガゾンビの声がしたと思った瞬間の出来事だった。 凄まじい怒号と地震のような波に襲われ、すぐに天井が崩壊してきたのだ。 おかげでみさえも翠星石も、放送での死者や禁止エリアの情報を聞き逃してしまった。 しんのすけは無事なのだろうか、蒼星石は無事なのだろうか、考える暇もなく、自分の命を拾うことに精力を注がなくてはならない状況に陥る。 結果として、二人はホテルの倒壊にあっても即死は免れた。その際翠星石は意識を回復させ、同時に強奪された銃も奪還することに成功したのだ。 みさえは微かに振り向き、翠星石のやや後方に目を向ける。 そこに転がっていたのは、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた誰かの四次元デイパック。 おそらく翠星石は、あのデイパックから零れた銃を回収したのだろう。だとすれば、あのデイパックは銃を取り上げていたガッツのものに他ならない。 彼のデイパックがあのような無残な姿を晒しているということは、つまり―― 「ガッツ……ねぇ、ガッツはどうしたのよ!」 「あんなデカ人間しらねーです。ま、大方この瓦礫の下のどこかで野垂れ死んでるんじゃないですか。翠星石には関わりのないことです。それよりも」 翠星石は突きつけた銃口をみさえの旋毛にグリッと押し付け、覇気を込めた声で言う。 「よくも! よくも翠星石をあんな目にあわせてくれやがりましたねぇ! 人間如きにあんな仕打ちを受けるなんて屈辱ですぅ!」 「仕打ちって……あなたがトンチンカンなことを言ってるからお仕置きしただけよ! それの何がいけないわけ!?」 「あーもう! これだから知能の低い人間の相手をするのは嫌なんですぅ! 今の状況が分かっていないですか!? お前は今から翠星石に殺される運命にあるのです!!」 癇癪を起こしたように顔を染め上がらせ、翠星石は力の限り銃の引き金を引いた。 銃声が鳴り、黒く開いた口から殺意の弾丸が飛ぶ――が、それは狙っていたみさえの後頭部を逸れ、天井へと放たれる。 何が起こったか理解できない翠星石は、同時に自分の身体がみさえの手によって乱暴に振り回されていることを知った。 隙を突き、小さな人形の身体を捕縛した――このまま投げ飛ばし、抵抗するつもりか。 翠星石は考えたが、答えはまるで見当違いであり、みさえの行動の真意も一瞬が過ぎる内に知ることとなる。 「――危ない!」 時間差で届いたみさえの危機を知らせる声は、翠星石に事態を把握させた。 振り回された体勢のまま、視覚でも確認する。 翠星石とみさえの後方に、剣を振るう褐色肌の女剣士がいた。 みさえに気を取られている間に、この女は翠星石の背後に忍び寄っていたのか――ようやく自分がとんでもない窮地にあったことを自覚した翠星石は、遅すぎる恐怖に身を震わせる。 あと数秒遅れていたら真っ二つという状況だった。げんこつの恨みは消えないが、この時ばかりはみさえの機転に感謝せざるを得ない。 というか、この女剣士はいったい誰だ。翠星石は一瞬考え、すぐにキャスカという名のミニ人間がいたことを思い出した。 「……スモールライトの効果が切れたのね。それにその剣も……最悪」 「うっ…………ぐぅぅぅ……」 キャスカが握っているのは、翠星石の銃と同じくガッツが預かっていたはずのエクスカリバーだった。 あれが彼女の手に渡っているということは、やはりあのズタズタに引き裂かれたデイパックはガッツのものなのだろう。 だとしたら、なおさら彼の安否が気に掛かる。みさえは未だ姿の見えぬ仲間を捜したい衝動に駆られるが、どうやら眼前の女騎士はそれを見逃してはくれないようだ。 獰猛な獣のように声を漏らし、現状が把握できていないのであろうキャスカは、混乱気味にみさえと翠星石を襲った。 グリフィス以外は敵。これはキャスカが定めたルールのようなものであり、目に付く人間、殺せるチャンスがあれば、深く考えずに襲えという本能からくるものだった。 女と人形のように小さな子供……戦力的に見てもなんら問題ない。左足は骨折により使い物にならなくなっていたが、腕さえ動けば十分に殺せる。 キャスカはエクスカリバーの柄を握る力を強め、片足で跳躍してみさえに飛びかかった。 巻き起こる剣風は、みさえのような平凡な主婦には到底回避し切れぬ代物だったが、キャスカが満身創痍なこともあってこれは難なく回避する。 「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ! おち……落ち着きなさいってば、ねえ!」 攻撃を回避しつつキャスカを宥めようとするみさえだったが、混乱の度合いが強いのか、彼女は剣を収めようとしない。 朝比奈みくるという少女を殺害し、ゲインやセラスに手傷を負わせた凄腕の女剣士――ガッツは保護対象として捉えていたが、やはりセラスの言うとおり彼女は殺し合いに乗ってしまったようだ。 相手が刃物を持っている以上、翠星石のようにげんこつやぐりぐり攻撃で鎮圧することは難しい。大人しく逃げるのが得策かと考えたが、みさえ自身も怪我人の身。 いつ崩壊するとも分からないホテル内を、キャスカの剣をかわしつつ負傷した足で脱出する自信はなかった。 何より、ここにはまだガッツやゲインがいるはずである。彼等の安否を確かめるまでは、安心して避難などできるはずがない。 「くあああああああああああああッッ!!」 「――ッ!?」 気合の咆哮と共に、キャスカはエクスカリバーを大きく振り上げた。 その奇声に一瞬怯んだみさえは瓦礫の足場につんのめり、転びそうになった身体を寸でのところで制御する。 その間、回避行動はままならず、停止したみさえの上空から真っ直ぐな一閃が振り下ろされた。 「――――」 目を瞑り、覚悟を決めた。 これはもう避けようがない。恐れから来る痺れが身体を固めさせるが、死にたくないという強い意識はまだ保っている。 たとえどうしようもない窮地だとしても、みさえは願った。 助けを。ピンチを救ってくれる、ヒーローみたいな誰かを待ち望んだ。 ――その脳裏に荒くれた大男の姿がよぎったのは、否定しない。 「お前はッ!」 (……え?) 突如、キャスカの驚きに満ちた声を耳にし、みさえはそっと瞼を開けた。 気づけば、両断されるはずだった我が身は五体満足のまま存在している。 いったいどうして――答えを求めた視界の先で、キャスカの剣を一心に防いでいる男の姿があった。 「ガ――」 その名を呼ぼうとして、みさえは異変に気づく。 目の前で自身を守る障壁のように君臨している男は、脳裏をよぎった彼ほど大柄な体躯ではない。 晒した上半身に包帯を巻きつけ、荒い息遣いでなんとか立っているその男は――ゲイン・ビジョウだった。 「ゲイン・ビジョウ!」 「よぉキャスカ。一度は撤退したかと思ったが出戻りか? そんな傷まで負って、そこまでして生き残りたいか?」 ――昼に起こった闘争を再びなぞるかのように、ゲイン・ビジョウとキャスカの二人は対峙する。 ゲインはみさえがベッドの傍に立てかけて置いたバットを得物とし、キャスカの剣を防いでいた。 調子が万全ならば両断することも容易かったであろう代物だったが、キャスカ自身もいっぱいいっぱいらしい。 エクスカリバーを握る手はどこか弱々しく、数多の兵士を率いていた頃の力強さは感じられない。 「驚かせてしまってすまない、ご婦人。少し尋ねたいんだが、君はシドウヒカル、もしくはセラス・ヴィクトリアの知り合いか?」 「両方よ! 二人は今外に出てていないけど、あなたの看病をしていたら突然ホテルが崩れ出して、っていうか今も崩れてる真っ最中で……」 「なるほど……なんとなくだが、状況は把握した。ここにキャスカがいる理由は後でゆっくり聞くとして、とりあえず彼女には眠ってもらわないと……な!」 降りかかる刃の切っ先をバットで流し、ゲインはキャスカを沈静化させようと腹部に蹴りを放つ。 だが負傷している身とはいえ、剣を持った傭兵に安易に隙が生まれるはずもなく、ゲインの一撃は空振りで終わった。 「相変わらず鋭いな。女性のものとは思えぬ剣捌きだ。……それだけの力を持ちながら、自分のことしか考えていないってのがマイナスだがな」 見た目にそぐわぬ豪快さもまた、女性のステータスの一部。ゲインはそう捉えていた。 だがその力を自分のため『のみ』に使うとあっては、とても褒められたものではない。 血気盛んなレディは嫌いではないが、少々痛い目を見てもらう必要がありそうだ……ゲインは疼く脇腹を押さえ、キャスカの剣とバットを交わした。 (自分の命に、興味などはない……。私は決めたんだ。グリフィスを優勝させ、鷹の団を再興する) 囁くように発した言葉は、ゲインの耳には届いていなかっただろう。 ゲインは思い違いをしている。キャスカは決して自分が生き残りたいがために戦っているのではなく、ただ一人、敬愛した男の無事を祈り剣を振るっているだけなのだ。 (グリフィス……ジュドー……ピピン……リッケルト……コルカス) 誰にも思いつかないような知略と、カリスマ性溢れる指揮でみんなを率いてくれたグリフィス。 投げナイフを得意とし、何事もそつなくこなす参謀役でもあったジュドー。 巨体を盾にして何度も敵兵の強襲を食い止め、白兵戦の要として活躍していたピピン。 幼いながらも常に皆のことを思い、鷹の団を支えていてくれたリッケルト。 身勝手ではあるが、いざという時には誰よりも果敢に敵に攻めていったコルカス。 何ものにも変えがたい、鷹の団の戦友たち。 (……ガッツ!) 一年前に鷹の団を去り、仲間を、グリフィスを裏切り我が道を進んだ――今はもういないガッツ。 (ガッツも、私も、いらない。グリフィスが、いれば……) ふと、自分でも驚くくらい仲間に対して献身的な思いを抱いていることに気づく。 その正体は、あの一年を無駄にしたくないという意地か、未だ潰えぬグリフィスへの思いか、傍を離れていったガッツへの怒りか――。 (深く……考えるなキャスカ。私はただ、敵を斬る。それ、だけでいい……!) エクスカリバーの握り手に再度、力を込める。 グリフィス以外の敵を消す。ガッツであろうと、誰であろうと。そのためにもまず、この場を生き延びてやるんだ。 「いくぞ……ゲイン・ビジョウ!」 「やれやれだな……」 鷹の団の千人長たる女戦士は、たった一人の男と残してきた仲間のために剣を振るう。 黒いサザンクロスの通り名を持つエクソダス請負人は、その肩書きの誇りに掛けて、脱出を願う者たちでのエクソダスを目指す。 観戦するしか道が残されていなかった主婦は、自分にでき得る最善の行動を模索し、そして速やかに取り掛かる。 他者を恨んでばかりの人形は、いつの間にか姿を消していた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】 【キャスカ@ベルセルク】 [状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night [道具]:なし [思考・状況] 1:目に付く者は殺す 2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。 3:グリフィスと合流する。 4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 1:キャスカを止め、ホテルからエクソダス。 2:市街地で信頼できる仲間を捜す。 3:ゲイナーとの合流。 4:ここからのエクソダス(脱出) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】 [状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲 [装備]:スペツナズナイフ×1 [道具]:なし [思考・状況] 1:ガッツ本人と、戦闘中のゲインの援護になるような物を掘り起こし、キャスカを止める。 2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。 3:セラスら捜索隊と合流。 4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。 5:しんのすけ、無事でいて! 6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する 基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:全身に軽度の打ち身(左肩は若干強い打ち身)、頭が痛い、全身各所に擦り傷 服の一部がジュンの血で汚れている、左肩の服の一部が破れている、人間不信 [装備]:FNブローニングM1910(弾:4/6+1)@ルパン三世 [道具]:無し [思考・状況] 1:あんなバカな人間共は放っておいて、さっさとここから逃げるです! 2:真紅や蒼星石と合流するです。 3:まずは魅音を殺してやるです。 4:水銀燈達が犯人っぽいから水銀燈の仲間は皆殺しです。 5:水銀燈とカレイドルビーを倒す協力者を探すです、協力できない人間は殺すです。 6:庭師の如雨露を探すです。 7:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。 基本:チビ人間の敵討ちをするため、水銀燈を殺してやるです。 [備考]:第三放送は聞き逃しました。 ※ゲインのデイパック: 【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】 みさえのデイパック: 【糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】 バトーのデイパック: 【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】 ロベルタのデイパック: 【支給品一式×6、マッチ一箱、ロウソク2本、9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの】 翠星石のデイパック: 【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】 パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、支給品一式、空のデイパック、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、首輪 がホテル内、もしくはホテル周囲の瓦礫の下に埋もれています。全て破損状況は不明。 ※ガッツの持っていたデイパックが崩落により損傷、中身が全て吐き出され、使い物にならなくなりました。 時系列順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 投下順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 高町なのは 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ キャスカ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ゲイン・ビジョウ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 野原みさえ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 翠星石 207 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 アーカード 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 園崎魅音 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 獅堂光 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on フェイト・T・ハラオウン 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on タチコマ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on ゲイナー・サンガ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 ストレイト・クーガー 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 セラス・ヴィクトリア 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ガッツ 207 「ゼロのルイズ」(後編)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1195.html
泥と血だらけのミス・ロングビルが、トリスティン魔法学院に帰還した。 ロングビルは衛兵に「土くれのフーケが…」と告げ、そのまま気絶。 現在は水のメイジ達による治療を受けている。 ロングビルが帰還した翌日には 『ゼロのルイズが命と引き替えに土くれのフーケを倒した』 という噂が学院中に広まっていた。 ロングビルが握りしめていた杖の破片に、ラ・ヴァリエール家の紋章が入っていたと、誰かが話してしまったのだ。 一気に噂は広がり、生徒達の耳にも入ることになった。 教師達は頭を抱えていた、なにしろ、ラ・ヴァリエール家といえばトリスティン屈指の名門だ。 責任問題となれば、魔法学院の教師が皆首を切られてしまうのではないか… そう考えて震え上がる者も少なくはない。 授業はすべてキャンセルされ、学院は生徒達のうわさ話と、教師達の不安による喧噪に包まれていた。 「それで、ミス・ヴァリエールは君の目から見てどんな生徒だったかね」 「向上心が強く、魔法の知識は優秀でしたが…」 「魔法が成功しない、とな」 「はい、原因は分かりませんが、ほとんどの魔法を『爆発』という形で失敗しております」 「ふむ、君は先ほど向上心といったが、それは違うじゃろうな。ラ・ヴァリエール家の三女が失敗ばかりしていたのなら、周囲からの風当たりも強かったじゃろうしのう」 「…おっしゃる通りです、コンプレックスから来る向上心だと考えられます、土くれのフーケを追ったのもそれが原因かと…」 「思い詰めておったかもしれんな、あの娘は…」 オールド・オスマンが水パイプを吸おうと杖を手に取るが、すぐに取りやめる。 生徒が一人死んだ。 いや、正確には元生徒が一人死んだ。 ロングビルが魔法学院に帰ってから既に三日経つ。 三日の間に、爆発の起こった場所へと教師を何名か向かわせて様子を探らせ、ラ・ヴァリエール家の居城に使者を出した。 ルイズの生存は絶望的、それがオールド・オスマンの出した結論だった。 ルイズが退学する何日か前、練金の授業で小石を爆発させ体に大火傷を負ったと聞いていた。 級友達が、水の秘薬をルイズに与えたが、回復するまでに一週間以上かったところを見ると火傷はかなり酷かったのだろう。 教師の一人、疾風のギトーによる報告では、森の奥に直径60メイル(m)にもなるクレーターが作られていた。 仮に、それがルイズの作り出した爆発であったとするならば、ルイズは跡形もなく… 「学院長!」 学院長室に飛び込んできたのは疾風のギトーだった。 「なんだね、血相を変えて」 「ラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレ様がご到着なされました!」 コルベールとオールド・オスマンは、意外な人物が、しかし考えてみれば当然の人物が現れたと知って、体を強ばらせた。 医務室では、体中に包帯を巻かれたロングビルが、ベッドから上体を起こしていた。 虚ろな目で淡々と何かを喋っており、ロングビルの頭には杖が押しつけられている。 その杖を持っているのは、トリスティンの魔法衛士隊、マンティコア隊の隊服を着た男性。 そして、もう一人別の女性が、ロングビルの言葉に耳を傾けていた。 その女性のマントにはマンティコアの刺繍が繕われている。 ロングビルはどこか惚けたような、力のない発音で言葉を続ける。 「私がフーケの作り出したゴーレムに捕らわれた所に、ミス・ヴァリエールが馬で駆けつけました。 フーケの作り出したゴーレムの腕が爆発し、私は地面に投げ出されました、地面に落ちた私を助け起こしたミス・ヴァリエールは、フーケの持ち出した箱を探せと私に指示しました。 ミス・ヴァリエールは名乗りを上げて、魔法を詠唱し、フーケのゴーレムの足を爆破し、動きを封じておりました。 その隙に私がフーケの小屋に入りました、そこで鍵の開けられた鉄箱と、一冊の本を発見し、持ち出しました。 私は、フーケの乗っていた馬を奪い、フーケを足止めしていたミス・ヴァリエールを馬に乗せて、逃げようとしました。 しかしミス・ヴァリエールは馬から飛び降りると、馬の尻を杖で叩き、私の乗る馬を走らせました。 私が手綱を引いて馬を制止しようとした瞬間、ミス・ヴァリエールは何らかの魔法を詠唱して、ゴーレムを爆破させ…気がついたときには、私は本を抱えて地面に倒れておりました」 ロングビルの上体がベッドに倒れ込む、すると、ロングビルの頭に杖を押しつけていた男が言った。 「嘘はついておりません、まだやりますか」 もう一人の女性は、「不要です」とだけ言ってから、医務室の椅子に腰掛け、深いため息をついた。 しばらくの沈黙の後、ノックの音が医務室に響く。 返事を待たずに開けられた扉から、オールド・オスマンが入ってきた。 「ミセス・カリーナ・デジレ様、こちらにおられましたか」 「…今の私はカリーナ・デジレではありません、元マンティコア隊隊長、カリンとして、土くれのフーケ襲撃の顛末を聴取します」 とりつく島もないな、と考えつつも、”烈風のカリン”による… …ルイズの母親による事情聴取が始まった。 オールド・オスマンはこの学院の全権を委任されている、いかにマンティコア隊の元隊長が相手といえど一歩も引くことはない。 それに、オスマンは内心に怒りを覚えていた、ロングビルの隣に座っているメイジは『重要参考人を水の秘薬で治療している』らしいが、それは半分嘘だろうと踏んでいた。 意識のないロングビルが何度か嘔吐を繰り返していたが、その時の吐瀉物を厳重な容器に入れ、蓋をしていたのだ。 おそらくあれは水の秘薬を用いた自白剤か何かだろう。 教師ではないが、ロングビルもトリスティン魔法学院の職員には違いない、オールド・オスマンは、微々たるものではあったが、目の前に座る”烈風のカリン”への不快感を隠さなかった。 オールド・オスマンからの聴取が終わる頃には、ロングビルの傷は回復し、意識も元通りになっていた。 それを確認したカリンは、ロングビルの隣に座っていた部下に命じて馬を手配させ、ロングビルを連行していった。 その姿を見た何人かの教師は『ロングビルはミス・ヴァリエールを死なせた責任を取らされるのか』と想像し、どうか自分にも飛び火しないようにと祈ったという。 連行されたロングビルだが、実際は連行された訳ではなかった。 土くれのフーケがどのようなルートを通ったのか、案内させられていたのだ。 馬の後ろをマンティコアが追尾してくる姿は、どことなく恐ろしい。 馬の蹄の痕が残っていた場合、『フーケ』『ロングビル』『ルイズ』の三名が後を追ったという話自体に信憑性が無くなってしまうところだったが、昨日の雨のせいで足跡はすっかり流されていた。 しばらく馬を走らせ、森の奥へとたどり着くと、そこには巨大なクレーターがあった。 クレーターには昨日の雨が溜まっており、まるで小さな池のようになっていた。 硫黄から作られた火の秘薬が、空行く戦艦や城壁を破壊することは知られている。 しかし、秘薬も無しにこれほどのクレーターが作られたという事実が、カリンとその部下の背筋を震わせた。 「…ミス・ロングビル、これは間違いなくルイズの手に依るものですか」 「え、は、はい、気絶してしまったのでハッキリとは申せませんが、ミス・ヴァリエールの魔法によって作られた物だと思います」 「そう、ですか」 カリンは馬から下り、フライの魔法を使ってクレーターの中心まで移動する。 深さは約3メイル(m)、直径約60メイル、爆風の影響で周囲の木々はなぎ倒され、クレーターの周囲はめくれあがった地面と木片が散乱している。 それを確認するとカリンは、ロングビル元へと移動した。 ロングビルは馬から下り、何かを話したそうにしていたが、カリンはそれを制止した。 「あ、あの、カリン様」 「ミス・ロングビル…ミス・ヴァリエールは短絡的な行動に走り命を無駄にした、これを肝に銘じ、トリスティン魔法学院の生徒には同じ失敗を繰り返さぬよう、よく申しつけなさい」 「えっ…そ、そんな言い方は!ミス・ヴァリエールは必死で」 「必死であったとしても、トリスティンの臣民として生まれた以上、その命は呵るべき時に散らすべき。ミス・ヴァリエールはその時を誤りました」 ロングビルは、目の前にいる女性『烈風のカリン』の言葉に衝撃を受けた。 娘の死に際してもこのような事を言えるのかと、怒りすら湧く思いだった。 …しかし、カリンの肩は、震えていた。 「私は魔法衛士として規律を守り、一切の反逆を許しませんでした」 そう言って、ロングビルに背を向ける。 「命を無駄に消費することは反逆にも等しい行為だとは思いませんか」 ロングビルは、何も答えられなかった。 しばらく黙っていると、カリンは部下に命令を下した。 「ミス・ロングビルを魔法学院に丁重にお送りしなさい、私はここで単独調査をします」 「はっ」 部下は杖を胸に掲げて返事をすると、ロングビルを馬に乗るように促し、カリンの乗ってきた馬を引き連れて、この場を離れようとした。 『ウウウウウ…』 マンティコアが鳴く、恐ろしげな姿そのままの鳴き声だったが、その声は主人の心を代弁するかの如く、どこか悲しそうだった。 その場から立ち去ろうとした時、ロングビルは確かに嗚咽を聞いた。 『鋼鉄の規律』『烈風のカリン』そう呼ばれ恐れられた女性は、池の縁に膝を落とし、肺の底から絞り出すような声で、泣いていた。 学院に戻ったロングビルは、オールド・オスマンに呼び出された。 「ミス・ロングビル、この度は大変な苦労をかけた、ミス・ヴァリエールは退学届けを受理した後に亡くなられた、学院に落ち度はない、よってお咎め無しと決まったんじゃが…何か言うことはあるかね」 「………ミセス・カリーナ様は、無駄に命を散らすことの愚を、私に説かれました」 「鉄の規律を信条とするのも辛いじゃろうな…内心では涙を流しておるじゃろうに」 「それと裏口脇に置かれていたミス・ヴァリエールの荷物は、後ほど回収に来られるそうなので、預かっていて欲しいと言われました」 「それはもうワシの耳に届いておるよ、ところで…む?」 オールド・オスマンが扉に注意を向ける、ロングビルも扉の前に立つ何者かの気配を察知したのか、杖を振って扉を開けた。 ガチャリと音がして扉が開く、するとそこには一人のメイドが立っていた。 「あっ」 「何の用ですか?」 ロングビルがメイドに問いかけた。 メイドは最初震えていたが、意を決して、ロングビルに一つの質問をした。 「あの…ミス・ヴァリエール様が…亡くなられたって…」 「あー、ミス・ロングビル、その娘をこちらに」 オールド・オスマンが、メイドを部屋に入れるように指示する。 メイドは一礼して学院長室に入る、調度品だらけの部屋に入るのは怖いのか、どこか落ち着かない。 「その服は厨房付きのメイドじゃったな、ミス・ヴァリエールの事が気になるのかのう?」 「あ、あの…」 厨房付きのメイド、シエスタは、どもりながらも話を始めた。 ルイズが厨房のメイドにも気にかけてくれていた事、包帯を支度してくれたお礼と称して足を治して貰ったこと、等々… 半月ほどの短い期間ではあるが、ルイズがとても良くしてくれたことを話し出した。 オールド・オスマンは優しそうな目でシエスタを見て、その話をじっと聞いていた。 一通り話が終わるとシエスタは泣き崩れてしまった。 それを見たオールド・オスマンは、ロングビルが取り返した本を取り出すと、シエスタに手招きをした。 「ミス・ロングビル、ちょっと席を外してくれんかの」 「はい」 ロングビルが部屋を出ると、オールド・オスマンはシエスタに本を見せた。 「この本はのう…宝物庫の中でももっとも厳重に保管されていたものじゃ、この本はシエスタの曾祖父母にも関係があるのじゃよ」 「えっ、ひいおじいちゃんと、ひいおばあちゃんに…ですか?」 「そうじゃ、表紙が読めるかの」 「えっと…『太陽の書』ですか?」 「そうじゃ、ところでシエスタ、おまえさんの曾祖母リサリサ殿は、何の仕事をしていたか知っておるか?」 「いえ…知りません、ひいおばあちゃんは何をしているのかよく分からない人だったって、聞いていますから」 「そうか、まあ、そうじゃろうな…この本はな、シエスタの曾祖父、ササキタケオ殿が、吸血鬼退治を生業としていたリサリサ殿の『技術』について記した本じゃ」 「きゅ、吸血鬼退治って、そんな、貴族様でもないのに吸血鬼退治なんて」 「本当のことじゃよ、ワシがこうやって生きていられるのもな、リサリサ殿とササキタケオ殿から、波紋という技術を教わったからじゃ」 シエスタは、混乱しそうになる頭を必死で押さえていた。 吸血鬼といえば、熟達したメイジが立ち向かっても勝てるとは限らない。 それほど狡猾で残忍な存在だ。 それを平民が退治していたと聞くだけでも驚きなのに、自分の曾祖父母が… 「もっとも、ワシは戦えるほどの力は持てんでな。その代わりワシが研究していた延命の魔法が、ワシに限り有効になってしもうたよ」 おかげで何度か魔法アカデミーに監禁されて解剖されそうになってのぉ~と、と笑うオールド・オスマンに、シエスタは冷や汗を流した。 「さて…この本は再度厳重に封印することになるじゃろう、何せこの本の内容は、貴族と平民の絶対的な立場を揺るがす可能性があるんじゃ」 「この本の内容が表沙汰になれば、ハルケギニアはまた大戦争に見舞われるじゃろう。それを未然に防いでくれたのじゃよ、ミス・ヴァリエールは」 「シエスタや、彼女のことを忘れないでやっておくれ、それが生きている者ができる唯一の餞(はなむけ)なんじゃよ」 「はい…私、絶対にルイズ様のことを忘れません…」 オールド・オスマンは廊下で待機していたロングビルを呼びつけ、シエスタを使用人塔まで送らせた。 ロングビルはシエスタを送り届けると、自分も部屋に戻った。 すでに時刻は夜、軽く杖を振り、ランプの明かりを灯すと、その蓋を開け、火を露出させた。 ディティクト・マジックを唱え、部屋に何も仕掛けられていないのを確認する。 そしてロングビルは髪の毛を書き上げ、生え際に出来ているでき物のようなものを指でつまみ、引きずり出した。 ずるり、と、人差し指と同じぐらいの長さが、頭から抜け出る。 太さは裁縫に使う針と変わらない。 それをランプの火の中に投げ込むと、まるでミミズがのたうち回るかのように、暴れ、そして燃え尽きた。 傷口に傷薬を軽く塗り込み、包帯を軽く巻き付ける。 そして一日の疲れを癒すためベッドに倒れ込んだ。 あの針のようなものは、ルイズの髪の毛であり、ルイズが「母が尋問に来た場合」を想定して、ロングビルに埋め込んだものだ。 頭に直接作用することで、水のメイジが調べても、ディティクト・マジックでも反応しない。 その上、自白剤の作用を肩代わりすることで、水のメイジが調合した自白剤も役立たないのだ。 フーケが宝物庫の壁をぶち破り、中から宝物を盗み出せたのはルイズのおかげだった。 ルイズが魔法の練習をした時、誤って宝物庫の壁にヒビを入れてしまった。 宝物庫は、スクエアクラスのメイジ数人がかりで固定化したという、非常に強力なもの。 それを破ったということで『土くれのフーケはスクエアクラスだった』という説が有力になっていた。 ロングビルは、何もかもルイズの思い通りになったここ三日の出来事を思い返し、笑みがこぼれた。 これから将来のことを考えると、愉快で愉快で、たまらない。 だが…ルイズの母の嗚咽だけが、ずっと耳に残っていた。 To Be Continued …… 6< 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1816.html
トリステイン魔法学院、学院長の部屋にパイプの煙が舞った。 オールド・オスマンが窓から空を見上げつつ、水パイプを吸っている。 ぼんやりと暇を潰しているように見えるが、頭の中ではミス・ロングビルにどう接するべきか、シエスタとモンモランシーにシュヴァリエが下賜されるのをどう伝えようかと思い悩んでいた。 ウェールズ皇太子とアニエスの二人は、日が高いうちに帰っていった。 オールド・オスマンはそれから夕方になるまで一人で悩み続けていた。 「どうしたもんかの」 ぷかあ、と音を立てて煙が昇る。 ミス・ロングビル。本名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。彼女は秘書として優秀なのは間違いない。 訳ありなのは解っていたが、家名を失った理由まで、深く知るつもりはなかった、むしろ知りたくなかった。 知った以上は、何かしらの便宜を図りたくなるのが、オールド・オスマンの性だからだ。 マチルダは涙ぐみながら、ウェールズ皇太子に大公反逆の真実を語り、その場にいる皆を驚かせた。 マチルダの話はこうだ。 アルビオンの大公は、ロバ・アル・カリイエからやってきた女性を妾にしていたが、その女性がエルフのスパイだと疑いをかけられた。 大公は妾とその娘をを庇ったが、妾が先住魔法の込められたマジックアイテムで怪我人を治療していたことがアダとなり、疑いは晴れるどころか深まってしまった。 結局、当時の王ジェームズ一世は大公に刺客を差し向け、大公と、大公を庇った者達を皆殺しにした。 話を聞いたウェールズは、マチルダに頭を下げ、名誉を回復すると約束した。 だがマチルダはそれを不要だと突っぱねた上、ウェールズを決して許さないと力強く叫んだ。 復讐はしない、しかし、決して協力もしない。それがマチルダの”ありかた”らしい。 オールド・オスマンは、ウェールズ皇太子の胆力は素晴らしいものだと、素直に思った。 二人が帰った後、オールド・オスマンはロングビルを気遣い、今日は休んで心を落ち着けなさい、と言った。 ロングビルは申し訳なさそうに礼を言うと、気が抜けたような表情で学院長室を出て行った。 「この様子では、パリーの奴も苦労が多かったようじゃなあ」 今は亡き、アルビオンの好敵手を思い出し、オールド・オスマンは静かに呟いた。 オールド・オスマンは偉大なメイジだと言われ、様々なコネクションを持ってはいるが、他国のお家騒動に詳しい程ではない。 だが、こういう時の勘は鋭い、長命に蓄えられた知識と経験に裏打ちされた”直感力”が、ロングビルの嘘を見抜いていた。 ロングビルの語る『真実』は、重要な部分がぼかされていると、見抜いていた。 「大公…東方から来た女性なんぞ、嘘じゃろう。東方から来た人間なんぞリサリサ先生しか知らん。もしや妾はエルフそのものか…」 杖を振り、水パイプを机の上から壁際の戸棚の上へ移動させる。 机の上に置かれた器を見ると、そこには針が浮いており、針は現在の時刻を示して少しずつ動いていた。 「そろそろ頃合いかの」 今日の授業はすべて終わり、夕食の時間が迫っていた。 オールド・オスマンは廊下に出ると、手近な教師に『夕食には出られない』と言づてを頼み、魔法学院の裏手にある倉庫へと歩いていった。 魔法学院の裏手にある石造りの倉庫は、元々は学院長専用のグリフォンや竜を繋ぎ止めておく厩舎であったが、現在は使われていない。 中は魔法学院学生寮の一室と同じ程度の広さがあり、使われなくなった藁束が詰め込まれている状態だ。 戸板にかけられた鍵をアンロックで外し、オールド・オスマンが扉を開ける。 すると中には、藁束の上で膝を抱えているシエスタと、腐乱の始まりかけた馬が転がっていた。 「シエスタや」 魔法学院の制服を泥で汚したシエスタは、オールド・オスマンの言葉にびくりと体を強ばらせた。 「丸一日、ここで過ごして、自分のしたことが解ったかね」 ちらりとシエスタの隣に転がった物を見る、シエスタがタルブ村に向かうのに使った馬だ。 「なぜ吸血鬼が我々の敵なのか、言ってみなさい」 「…人間を、食べるからです」 シエスタが細い声で答えると、オスマンはうんうんと頷き、更に質問した。 「吸血鬼はどうやって人間を食べるのかね」 「人間を食屍鬼に使役して、人間をだまし、血を吸います」 「そうじゃ、食屍鬼じゃ。いいかねシエスタや、吸血鬼と戦う者が吸血鬼に成り下がってはいかんのじゃよ」 オスマンはゆっくりと歩き、シエスタの隣に腰を下ろした。 「貴族の馬鹿息子どもが、平民をお遊びで殺すこともある。シエスタはそうなりたいのかね?」 「…いいえ」 「なら、なぜ馬を殺したんじゃ」 「それは、その、私、気が動転してて」 「ならシエスタに波紋の資格はない。その呼吸、ワシが封じてやろう」 「!!」 「気が動転したなどと言っている間は駄目じゃ、貴族も波紋戦士も、その力と立場を傲(おご)ってはならんのじゃ」 「………」 「もう一度聞く、なぜ馬を殺した」 「わ、私が……馬を、操って、殺したんです……早く、タルブ村に行きたくて」 シエスタの目から涙がこぼれた、それを見て、オスマンはふうとため息をついた。 どっこいしょと言いながら立ち上がると、シエスタに手をさしのべる。 「……ミス・シエスタとミス・モンモランシーに、シュヴァリエが下賜されることになった。今の反省を忘れてはならんぞ、これから正式に貴族の仲間入りをするんじゃからなあ」 「えっ」 呆気にとられたのか、シエスタは大きく目を開いてまばたきをした。 目は口ほどにものを言うと言われるが、まさに『信じられない』といった表情だった。 「貴族が、平民を奴隷にすることもあるじゃろう。シエスタがこの馬を殺したようにな。それを自覚し、反省せねばシュヴァリエなど無用の長物じゃ」 「…はい」 「波紋の力、決して間違った使い方をしてはならぬ。命を司る波紋戦士だからこそ命の尊さと、儚さを知らねばならんのじゃ。解ったかね」 「はい。」 「そうか、ならよい。久しぶりにマルトーのところに顔を出してやりなさい、まかないでも食べて、初心を思い出す事じゃ。それと…この馬も埋葬してやらねばなあ」 オールド・オスマンの言葉が、シエスタの心に重くのしかかった。 シエスタは部屋に戻ると、泥だらけになった服を脱いだ。 別の制服に着替えると、空の桶を持って井戸に行き、水をくむ。 制服を水に浸してからマルトー達のいる厨房へと向かった。 厨房は夕食の後かたづけをしている最中で、のぞき込んでみたはよいものの、声をかけづらい。 どうしようかと思っていると、包丁の手入れをしていたマルトーがシエスタに気づき、声をかけてきた。 「おお!シエスタ、どうしたんだ、腹減ったのか?」 「マルトーさん」 いつものように接してくれるマルトーの笑顔に、シエスタは心が癒されたのか、ほんの少しだけ笑顔が戻る。 ところが、その次に出てきた言葉が、シエスタの表情を深く曇らせてしまった。 「オールド・オスマンから聞いたぜ、今度シュヴァリエを賜るんだって?」 マルトーの何気ない言葉を聞き、厨房で働く者達から、おお、と声が上がった。 「あ……」 だが、シエスタにはその声が、どこか恨みの混じった声に聞こえてしまう。 いつも、厨房では食事を残す貴族、横柄な貴族への悪口を聞いていた。 だが、今度は自分もその貴族に加わるのだ、波紋を魔法として扱い、これから先は貴族として皆と接しなければ行けない。 そう思うと、マルトー達との間に深い溝が出来てしまった気がする。 『裏切り者』と、言われているような気がした。 「どうしたよ、そういえば夕食に顔を出してなかったみたいだが、食いそびれたのか?」 「あ、あの、マルトーさん、私」 シエスタの目からぼろぼろと涙がこぼれた。 「なんだ、ちょっ、どうしたんだよ」 マルトーは困惑しつつ、泣き崩れるシエスタの肩に手を置いた。 厨房内に振り向き、何人かのメイドを呼び、シエスタを食堂へと連れて行って貰う。 人気の亡くなった食堂の席にシエスタを座らせると、マルトーはその向かい側に座った。 「どうしたんだよ、沢山の人を治療したそうじゃないか、故郷の村の人たちも治してやったんだろ?何を泣いてるんだよ」 「うぐ…私、私、貴族になりたくない…私……自分が自分じゃなくなっちゃうみたいで……怖いんです…」 「なあ、シエスタ。こんな言い方して良いものかどうかわからねえけどさ。ええと……ミス・ヴァリエールがシエスタの足を治してくれたろ」 「え…は、はい」 ルイズと初めて言葉を交わした日。 あの日、シエスタは足をルイズに治して貰っていた。 子供の頃片足が折れ、歪んでくっついてしまったので、左右の足の長さがほんのわずかに違っていたのだ。 水のメイジに頼むようなお金もないので、シエスタは魔法学院で足を多用しない仕事に就いていた。 厨房で働けるようになったのも、外を全力で走ることが出来るのも、思えばルイズのおかげだった。 「シエスタはそれを受け継いだんだよ、平民の俺たちもよく気遣ってくれるいい貴族様だったじゃないか、それを忘れなきゃ大丈夫さ」 「…ルイズ様」 シエスタの記憶には、包帯を借りに来たルイズの姿と、火傷が治りあどけない笑顔を見せるルイズの姿が、はっきりと残っている。 シエスタにとって、ルイズは憧れだった。 憧れだからこそ、『土くれのフーケ』と、『石仮面』が許せない。 ルイズは何者かの手によって『石仮面』を被せられ、吸血鬼化していると、オールド・オスマンは言っていた。 にわかには信じられないが、曾祖父の残した大量の日記と、波紋の力を理解していくうちに、その説に信憑性が増していく気がするのだ。 ルイズが『石仮面』によって吸血鬼にされているのなら、自分に与えられた『波紋』はそれを打ち砕くための力だと信じて止まなかった。 タルブ村での戦争もそうだ、戦争をする貴族、人の血を吸う吸血鬼、立場こそ違えども人を犠牲にすることに違いはない。 波紋を人間同士の戦いではなく治癒のため、守るために使うべきなのだと、改めて思った。 「そう、ですね。私、ルイズ様に笑われないように、頑張らなきゃいけないんですよね……」 「あの、マルトーさん、ルイズ様が”ゼロ”って呼ばれていた理由、ご存じですか?」 「確か魔法が一切使えなかったから、魔法成功率ゼロ、だからゼロのルイズって呼ばれてたんじゃないか」 「ゼロ…なんですよね」 シエスタは顔を俯かせ、何かをぶつぶつと呟いた。 表情は至ってまじめであり、何かを考え込んでいるようだった。 「まあ、シエスタなら大丈夫さ、きっといい貴族になれるよ。まかないのシチューしかないがすぐに持ってくる。ちょっと待ってな」 そう言い残してマルトーが食堂を出る、後には、一人で何かを考え込むシエスタが残された。 「魔法が成功しないのなら、私の足を治したのは……まさか、ルイズ様、あのとき既に……」 強く頭を振り、考えることを止めようとしたが、次々に心の中にルイズの笑顔が浮かんでくる。 何度も何度も考え直しても、シエスタが思いつくのは、残酷な結論だけだった。 『ルイズ様が操られていなかったとしたら』 『ルイズ様が自分の意志で死を偽装したのだとしたら』 『私が殺すのは、憎き吸血鬼ではなく、尊敬するルイズ様』 恐ろしい想像にぶるりと体を震わせたシエスタは、手を自分の方に回し、自分で自分の肩を抱いた。 かたかたと歯が震えるのを、止めることは出来なかった。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2599.html
前ページ次ページユリアゼロ式 「お手伝い?」 「はい! 私、今までシエスタさんにはお世話になったからその……シエスタさんのお役に立ちたいんです!」 朝の起き掛けにユリアはルイズにシエスタのお手伝いをしたいと申し出たのだ。 「ふーん……まあ私もシエスタにお世話になってるし、いいわ手伝ってきなさい。でも迷惑をかけちゃだめだからね。」 「はい、もちろんです!」 ユリアは嬉しそうに敬礼した。 「お手伝いですよね……うーん……」 「お願いします! どうか私と一緒に……!」 ユリアは両手をあわせて頭を下げた。その姿を見てシエスタは思わず微笑んだ。 「わかりました。じゃあ一緒に昼食でも作りましょうか」 まずは食材を洗ってから材料の切り出しに取り掛かる。 シエスタは慣れた手つきで材料を切っていくのに対しユリアも上手く皮むきを行う。 ただ、ユリアは皮むきしかする事が出来ないのだが、その皮むきを一生懸命に行う姿は何か心にくるものがある。とシエスタは感じていた。 『ユリア100式マニュアル ダッチワイフであるユリア100式は皮を剥くのとコスるのは得意なのだ!』 調理が一段落ついたところでユリアはシエスタに聞いてみることにした。 「そういえば、一つ気になっていたことがあるんですけども……」 「はい、なんでしょうか?」 「シエスタさんのおじいさんってどんな人だったんですか?」 「それは………」 話が少し長くなるかもしれないから。とシエスタはユリアにはしばみ茶を淹れてくれた。ユリアもそれを口にする。 「おじいちゃんは私によく服を作ってくれました。 それを私によく着させてくれたんですけど、でもおじいちゃんが本当にやりたかったのはそういう事じゃなかったんです。」 「……シエスタさんのおじいちゃんがやりたかった事ってどんなことだったんですか?」 「この前お話したかと思いますが……ダッチワイフを作ることだったんです。」 ユリアは口に含んでいた茶をシエスタの顔面に思いっきり吹いた。 「すいません! びっくりしちゃってつい……」 「いえいえ、驚かれるのは普通のことだと思いますよ。茶を吹かれるのは予想外でしたけど。」 シエスタとユリアは一旦コップの中にあるはしばみ茶を全て飲み干し、喉が渇いたら一旦休憩して、決して話している途中に口に何かを含まないようにした。 シエスタの頃には祖父はダッチワイフ作りを断念し、村の小さな娘達に服を作ってあげるのに専念していたそうだ。 「その時、細かい嗜好の差はあれどそれは二次元の中だからこそ許されるものであって、 二次元がないこの世界だからといって肉親の立場を利用して三次元に手を出しかけている自分の浅はかさが恨めしい。と言ってよく私に服を着せてあげながら嘆いていたんです。」 「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! いっ、今『二次元』って」 「はい。言いました。私もよく意味はわからないままなんですけど………」 「いいか、シエスタ。世の中にはリアル幼女に目を向けて興奮する輩どもがいるが俺はそういうのとは違うんだぞ。」 「うん。」 シエスタは料理上手な祖父が淹れてくれたはしばみ茶を飲みながら祖父の熱い話に耳を傾けるのが日課になっていた。 シエスタの祖父は彼女に対しロリ好きのオタクついて熱く語っていた。 「ロリ好きな人の中にも細かい嗜好はあってしかるべきだしそれは二次元で楽しんでこそ許されるものであって、 リアル幼女と触れ合えるというだけで嬉々とするこだわりのないオタクは嫌いなんだよ。」 「うんうん。」 よくわからない単語だらけでこれまで何十回と聞いた話であったが嬉しそうにシエスタは頷いた。 彼も嬉しそうに頷く。 「そうだなあ。俺のこういう話をまじめに聞いてくれるのはシエスタだけだよ。いやあ嬉しい、嬉しいなあ。」 祖父はシエスタの頭を嬉しそうに撫でた。シエスタも思わず目を細める。 「シエスタは大きくなったら何になりたいんだ?」 「私、おじいちゃんがいつも言ってる"メイドさん"になる!」 この時シエスタは8歳。この世界に身を投じることを早くから決心していたようである。 「でも、おじいちゃんの言ってる"メイドさん"と皆が言ってる"メイドさん"って何か違うような気がするんだけど……」 祖父ははしばみ茶を一口で飲み干してからこういった。 「いいかシエスタ。もしシエスタがメイドになったら自分に向けられる好奇や侮蔑、そういった視線に晒されて悩むかもしれない。 でも、この世界には絶対自分のことを大切にしてくれるご主人様がいるんだ。ご主人様に巡り会えたらその人を大切にしろよ。」 「……うん! なんかよくわかんないけどわかった!」 「そ、そうか……ははは………」 祖父は困ったように頭をかきながら苦笑したのであった。 「……で、今のシエスタさんがいると。」 「はい。確かに私のおじいちゃんは変わり者でしたけど、面倒見はいいし、料理は上手いし、裁縫も上手だし、村の皆からは好かれていたんですよ。」 どうやらシエスタの祖父は悪い人ではないらしい。 そうこうしてる間に昼食が完成した。 「わぁ………」 思わず感嘆の声を上げるユリア。シエスタも満足げに微笑んだ。 「これがおじいちゃん直伝の料理のヨシェナヴェです。」 中にはあの日本で寄せ鍋と呼ばれているものが入っていた。 鍋料理は食べたことが無いユリアだったがなぜか知らないが、懐かしさを感じていた。 「ご馳走様でした!」 「いえいえ。またいつでもいらしてくださいね。」 ヨシェナヴェの味は絶品だった。口の中に広がるダシ、食材の瑞々しい食感、身体の芯まで温まるような感覚。 今度はルイズさんにこの料理を作ってあげたい……とユリアは思うのであった。 「結局あのことはユリアさんでもわからなかったのか……っていうか教えてくれませんでしたし。」 シエスタは小さなため息をつく。 『シエスタ。俺はな、二次元の女の子と愛でるのが夢だったんだ。 でも俺はそれを叶えることが出来そうにない。 だけどもし、メイドロボやダッチワイフにお前が出会ったとしてもそれを軽蔑や偏見のまなざしで見るのはやめてくれ。 メイドロボやダッチワイフは性交渉で愛するだけが目的ではない。愛されることもまた目的なのだよ。』 「メイドロボとメイドの違いってなんなんでしょうかね?」 シエスタは一人そんなことを夕焼け空に向かってつぶやいた。 こはるびよりの村瀬貴也がシエスタの祖父 前ページ次ページユリアゼロ式
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/357.html
前ページ次ページゼロのミーディアム カチャ… 少女の寝息しか聞こえぬ薄暗い部屋から何かの開く音。それは部屋の隅に置かれた一つの鞄から出たものだった そしてその開かれた鞄から一人の少女が出てくる 「ん~清々しい朝ねぇ」 漆黒の翼をバサリと広げ大きな背伸びをする少女…水銀燈。そしてベッドで眠っている少女、ルイズの方を見た 「ん~メロンパンがこんなにたくさん~もう食べられないわ~」 眠りながら既に使い古されたフレーズを呟くルイズ。寝言のテンプレとも言えるお約束の一言。しかし何故メロンパン? 「とりあえずこの子を起こさなきゃねぇ…」 水銀燈がカーテンを開くと眩い光が差し込み部屋を照らした 「朝よぉ、起きなさい。ナg…間違えた。ルイズお嬢様?」 お嬢様なんて言ってるが多分彼女のことだから皮肉っているのだろう …待て、今なんか言いかけなかったか?ナgって何だ?間違えたって何だ!? 「ふぇ…?もう朝なの?…ってあんた誰!?」 ルイズは寝ぼけ眼をこすったと思いきや突然怒鳴りだす 「はぁ…貴女もう自分の契約者忘れちゃった訳ぇ?」 水銀燈はやれやれと言った手振りでため息をついた 「ああ、そう言えば昨日召喚したのよね…」 ルイズは起き上がるなり大きなあくびを一つして水銀燈に命じる 「下着と服~」 「はいはい。…下着ってどこよぉ?」 「そこのクローゼットの一番下よー」 しぶしぶと服と下着を取りルイズに渡す。不本意だが昨日約束したことなので文句は言わない 下着を身につけたルイズは再びだるそうに呟く 「服、着せて」 「…貴女、服を自分一人で着れないって訳じゃないわよねぇ?」 「あんたは知らないだろうけど貴族はしもべがいる時は自分で服なんて着ないのよ」 「全く…世話のやける子なんだからぁ…」 水銀燈は仕方なくブラウスを手にとりルイズに着せてやる 「んーよきかなよきかな~あんた意外に服着せるの上手いわね」 「アリスになった暁にはお父様の御世話をして差し上げなきゃいけないでしょお? その為に色々できるようにしておいたんだけど…」 まさかこんなことの役に立つとは 「…なんかわかんないけど、ずーっと昔からあんたにこうやって服着せてもらってるような気がする…」 「奇遇ねぇ?何故か私もそんな気がするのよねぇ?昨日会ったばかりなのに…何故かしらぁ?」 少なくとも二人が前世ではお嬢様とそのメイドさんだったりするなんてことは無いと思われる、多分 ルイズの部屋を出ると同じようドアが壁に並んでいた そのうちの一つが開き中から燃えるような赤い髪の女の子が出でくる 女の子と言ったが身長はルイズより高く体つきは大人に近い。むせるような色気を放つ女性だ 「おはよう。ルイズ」 赤毛の彼女はルイズを見るなりにやっと笑い挨拶をかわす 「…おはようキュルケ」 ルイズは露骨に嫌そうな顔で挨拶を返した 「ねぇ?昨日のサモン・サーヴァントであなたも使い魔召喚したのよね?何召喚したのよ? ちなみに私は誰かさんと違って一発でこんな素敵な子呼び出したのよ?フレイム!」 彼女は…キュルケは突然会うなり嫌みに話を切り出し出し自慢げに使い魔を呼び出す (典型的な嫌な奴ってとこかしらぁ?こういうのス○オって言うのよね?意味は分からないけど) 水銀燈はそう思っても口には出さない キュルケに呼ばれのっそりと彼女の部屋から真っ赤なトカゲが現れた 「火トカゲよ!見て?この尻尾!ここまで鮮やかな炎の尻尾は間違い無く火竜山脈のサラマンダーよ! ブランドものよー!好事家に見せたら値段なんかつかないわよ!」 「ふぅん…これがサラマンダー?初めてみたわぁ。本当にこんなのがいるのねぇ~」 床に降りサラマンダーをまじまじと見て物珍しそうに水銀燈は言った 「ルイズ…何なのこの子?」 「私の使い魔よ?」 「プッ…あなたサモン・サーヴァントで人間呼び出してどうするのよ!」 「私は人間じゃないわよぉ」 「は?何言ってんの?あなたどう見ても人間じゃないのよ!」 バカにした口調で水銀燈を指差し言うキュルケ 確かに水銀燈は見た目はちょっと小柄で翼を生やしているが それ以外はどう見ても人間です。本当にありがとうござました 「はぁ…あんた、ちょっとドレスの袖上げて」 「全く…私の体は見せ物じゃないのに…」 水銀燈が腕の袖を上げる 「球体関節…ってこの子人形なの…!?」 そう、水銀燈の手首と肘の部分は人間のそれと違っていた 「そうよ?おまけに自律式で自動式!」 「自律式!?実現されたなんて聞いてないわよ!?そんな人形!」 「その通りよ。ブランド物どころの騒ぎじゃないわ! 好事家に見せたら値段つくどころか研究者に押収されてバラバラにされて調べ上げられるわよ!!」 「死んでもそんなことにならないようにしてよねぇ? ああ、ハジメマシテ私は誇り高きローゼンメイデンの第一ドール水銀燈。コンゴトモヨロシク…」 水銀燈はキュルケにいつもの妖しい笑みを浮かべ慇懃無礼に自己紹介 彼女もキュルケの性格はあまり好ましくないらしい キュルケは内心舌打ちした (聞いてないわよ!どうせゼロのルイズのことだからただの人間とか、 それもなんか冴えない地味な平民あたりを召喚して途方に暮れてると思ったのに!) どうでもいいがなんでそんなに使い魔の例が変に具体的なのだろうか?人間だの地味だの平民だの 「そ、そう!なかなか面白い使い魔ねぇ!ゼロのルイズにぴったりな変な子で!それじゃ、お先に失礼~!」 そう言うと引きつった笑いを浮かべ炎のような髪をかきあげ去っていった ルイズは水銀燈を見やり小さく呟く 「…あのキュルケに一泡ふかせたってだけであんた呼び出して良かったかもね?」 「ん?何か言ったかしらぁ?」 「な、何でもないわよ!」 「ところであの子も言ってたし昨日から耳にしてることなんだけど…ゼロのルイズの『ゼロ』って何なのよ?」 「…ただのあだ名よ。ちなみにキュルケは『微熱』。微熱のキュルケ」 「あの子のはなんとなく納得できるけど貴女はなんで『ゼロ』なの?」 「あんたには知らなくていいことよ」 「うーん、貴女の通った後はペンペン草一本生えないからゼロだとか…」 「そんなわけないでしょ!どんな危険人物よそれ!」 「そうよねぇ?なんかバカにされてる感じだったし… ああ!わかったわぁ!ゼロと言うのは貴女のむn…」 水銀燈はルイズの体の一部を見ながら言いかけたが… 「……!!!」 「…やっぱりなんでもないわぁ」 ルイズの無言の圧力と鬼気迫る表情の前に大人しく引き下がった ルイズと水銀燈が朝一番に向かったのは学園内の食堂だった。 かなりの大きを誇る食堂だ。内部はゆうに百人は座れる出あろう長いテーブルが3つ並び 生徒だけでなく先生も食事をとっている。学院内全ての食を担う場所なのだろう 食堂に入るルイズと水銀燈。水銀燈は入るなり近くにあった小人の銅像とにらめっこ。 そんなにその銅像が珍しいのだろうか? 「見ての通りここは食堂よ。正式名称は…」 「『アルヴィーズの食堂』でしょお?」 ルイズに向き直り答える水銀燈 「何で知ってるのよ?」 「この子に教えてもらったのよぉ」 彼女はさっきまで見ていた銅像に目を向け言った 「…銅像が喋る訳ないでしょ?」 「それはあなた達が耳を傾けてないのよ、この子達結構お喋りなのよ?え?なぁに?」 とまた銅像に向き直る どうやら本当に会話をしているようだ 「え、そうなの?やっぱり?そりゃそうなっちゃう訳よねぇ」 「何よ?その子なんて言ったのよ」 「貴女のこと『食べ物の好き嫌が多いから背も胸も大きくならないんだよ』って言ってるわぁ」 「こいつらすました顔してそんな事考えてるの!? …って、大きなお世話よッ!!」 「はいはい怒らない怒らない。乳酸菌足りてない証拠よぉ?ささ、席にお着きになって嬢様?」 性格はアレでも礼儀はわきまえているのか水銀燈は使い魔らしくルイズの席の椅子を引く …なんか馬鹿にされてるニュアンスがあるのは気のせいだろうか? 水銀燈はルイズを座るのを見届けると自分はその横の席に腰掛けた 「朝から無駄に豪華ねぇ?私もこれ頂いていいのかしらぁ?」 「本当は良くないんだけどね、約束は約束。特別に許可してあげる」 どこかから「ひでぇ!俺の時は床に座らせられた上に貧相なスープと固いパンだけだったのに!」と言う一般人で平民の声が聞こえてきたような気がしたが多分幻聴だ。 気にしない気にしない。そう怒るなよ。乳酸菌とってるか?才人。 「本当に食べてるわね…」 「そりゃ食べるわよ。お腹すいてるし」 食事をとる水銀燈見て呟くルイズ 見た目はほぼ人間近いので時折忘れてしまうが彼女は人形である ナイフとフォークを器用に使い優雅に食事をとる様は実に愛らしい (黙ってれば見た目はいい子なのに…) …おそらく水銀燈もルイズに対し同じ事を思ってると思われる 食事が終わればいよいよ授業が始まる。 教室は大学の講義室のような物だった ルイズと水銀燈が中に入ると中の生徒が一斉に振り向く。 (あれがゼロのルイズの使い魔か?) (アイツ人間なんか召喚したのかよ) (いや、それが人形だってさあの娘) (人形?ガーゴイルやゴーレムみたいなもんか?) (噂によると勝手に動いてるらしいぜ?) 生徒達は何かヒソヒソ話を繰り広げている。いろんな意味で有名な彼女とその使い魔に興味が尽きないようだ 「人気者ねぇ?貴女」 「いや、あんたのせいだから」 周りの生徒も様々な使い魔を連れていた 特に水銀燈の興味を惹いたのは彼女の世界ではおとぎ話やファンタジーの世界の生き物とされている空想上の生き物だった 「あれってバジリスクよねぇ?」 「そうよ。下手にさわると石にされるから気をつけなさいよ」 「あの目玉のお化けみたいなのは?」 「バグベアーね」 水銀燈が指差した先には巨大な目玉がと浮かんでいた そのバグベアーと水銀燈の目が合った するとバグベアーはぷかぷかと浮かびながら水銀燈に近づいてくる 「…何なのよコレ」 近くまで近づいてきたがやはり少々グロテスクだ 「安心なさい。別に危害を加えようって訳じゃなさそうだし」 バグベアは水銀燈の方を向きその一つ目をニッコリさせる (見た目はアレだけど別に悪い子じゃなさそうねぇ…)と思った矢先 「このロリコンどもめ!」 ピシッと言う何かが凍りつくような音とともに水銀燈の顔が引きつった 「縁起がいいわね、あんた。女の子がバグベアに鳴かれるのって吉兆なのよ?」 「このロリコンどもめ!」 「変な鳴き声よね?生物学者が言うには『世界の少女に祝福を、全ての少女に幸福を』って意味が込められてるそうよ?」 「このロリコンどもめ!」 バグベアーは水銀燈に黒い触手のような腕を差し出した 「ほら?握手求めてるわよ?」 水銀燈は引きつった顔のまま腕をとり 「あー、その、よろしくね…」 と返すしかなかった 「このロリコンどもめ!」 バグベアーの方も嬉しそうに答えた そんなやりとりをしていると扉が開き教師らしき中年の女性が入ってきた 間もなく授業がはじまる ――そして水銀燈はここで知ることになる。何故彼女が…ルイズがゼロなどという二つ名で呼ばれているのかと言うことに 前ページ次ページゼロのミーディアム
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1347.html
第十話 ルイズの覚悟 その① その頃タバサは… 深夜にも関わらず、キュルケに関する手がかりを捜していた。 なぜなら情報がほとんど耳に入ってこないからだ。(実際にはロングビル情報があるが信用していない。) それに、表情にはあらわさないが、とても焦っていたのだ。 そうしてタバサは広場を歩いていた。横にはシルフィードも一緒だ。 そうこうして歩いているとタバサは異変を感じた。 芝生が不自然に焼け焦げているのだ。調べてみるとそれはとても広域である。 此処で火の魔法の実習がおこなわれたという話は聞いていない。 それに、決闘があったのはヴェストリの広場だ。ここではない。 こんなあからさまに焼け焦げているのにどうして誰も見つけられなかったのだろう。 他の人ならともかく、自分までどうして、とタバサは不思議に思った。 そして焼け焦げたあとを辿ってみると、なにやら文字のようである。 シルフィードに乗って上空から魔法で照らしてみる。 すると文字が浮かび上がってきた。 《ロングビル ハ キケン キュ》 タバサは瞬時に理解した。これはキュルケのメッセージであると。 もうキュルケはこの世にいないであろうということを。 そしてその犯人がロングビルであるということを。 タバサはオールド・オスマンの部屋を訪ねた。 第十話 ルイズの覚悟 その② 「入りなさい。」 オールド・オスマンの許可をもらい、入室するタバサ。 「こんな夜遅くに一体どうしたね?」 「ミス・ロングビルは何処。」 「質問を質問で返すのは良くないが、まぁ、いいじゃろ。ミス・ロングビルはミス・ヴァリエール、ミスタ・グランドプレと一緒に土くれの…っとこれは禁則事項じゃった。とりあえずお出かけ中じゃ。」 「だいたいわかった。場所は。」 「えーっと、たしか近くの森の小屋で…っと、うっかり言ってしまったわい。」 「二人が危ない。」 そういって部屋を飛び出していくタバサ。 「まぁ、確かにミスタ・ギトー相手はちときつかったのう。しかもフーケだし、とすると土と風のトライアングル以上ってことになるし…。 少々まずかったかもしれんのう。じゃが、持つべきものは友達じゃわい。」 「大丈夫か、ルイズ?」 「わ、私は大丈夫よ。それよりもマリコルヌは?」 「マリコルヌならあそこで気絶してるぞ。」 「よかった、巻き込まれてなくて。」 そこでフー・ファイターズガ見ているのに気付き、 「…かかか、勘違いしないでよね!私はあんなかぜっぴきでも死んでほしくはないだけよ!それだけだからね!」 「今はそれより…」 フー・ファイターズが馬車のほうを見る。 そこには土の口から出てきたロングビルもといフーケがいた。 「フフ、今のはわざと逃がしてあげたのよ。私はいつでもあなたたちを始末できるもの。この先住魔法…ハイプリエステスでねッ!」 第十話 ルイズの覚悟 その③ 「五月蝿いわね!くらいなさい!」 ルイズが失敗魔法を使う。しかしフーケは杖を使わずに、土を隆起させてその身を守る。 「そんなっ、先住魔法が使えるなんてッ!」 フー・ファイターズも応戦するが、全て防がれてしまっている。 なんというか相性が悪すぎる。 ルイズの爆発で崩しても何度でも再生するし、フー・ファイターズに至っては水切れ寸前だ。 フーケだっていつまでも防御だけしているはずはない。 地面から鋭利な刃が伸びてきてルイズを襲う。 そしてルイズの杖を持っている方の腕が切断された。 「ッ…ッッッ………ッ!」 ルイズは悶えている。目からは大量の涙を流し、それでも泣き叫ぶのを堪えている。 貴族の意地というヤツだろう。腕を押さえてはいるが、そこからあふれ出る血は噴水のように噴出し、だんだん緩やかになるも、止まる気配はない。 フー・ファイターズは、その吹き出る血で少しばかり水分補給をしてから、ルイズの腕を己でくっつけて固定し、ルイズを抱え逃走する。 今のままでは適わないのは当然であるし、何よりもルイズを守らなくてはならないと感じたからである。 しかし現実は甘くない。 フー・ファイターズを取り囲むように土が隆起してくる。 フー・ファイターズは死を覚悟した。 すると上空から鋭い氷の塊が降り注いで土を破壊していく。 「間に合った。」 第十話 ルイズの覚悟 その④ その声にフー・ファイターズは上空を見上げる。 そこにはシルフィードに乗ったタバサがいた。 「きゅいきゅい!(参上なのね。最初からクライマックスなのね!)」 「ウィンディ・アイシクル。」 タバサは先ほどの攻撃をする。 しかしフーケは意図も簡単にそれを防いでみせる。 「無駄よ無駄ァ!杖が必要ない今ッ!どんな攻撃でもッ!瞬時に防御することができるわッ!!」 そのあと、タバサは様々な攻撃を繰り返すが、総て防がれてしまう。 「強い。」 正直タバサも予想外であった。 キュルケを倒したヤツとはいえ、此処まで強いとは思ってもみなかったからである。 実際にはスタンド能力なのだが、杖を使わない魔法はとてつもない脅威である。 杖を奪えば終わり、ということがなくなるからである。 フーケは始末しなくてはならない。タバサが少し考え、本当に僅かだが攻撃が止まっている隙に、フーケはルイズ向かって攻撃を開始した。 「まずはヴァリエール。…使い魔と一緒に、一足先にリタイアよ。」 「まずい。」 タバサが攻撃を再開するが、防御と攻撃を同時にやってみせる。 「やられる。」 「くたばりなさいっ!ゼロ!!破壊の杖の使用方法はあの糞爺をSMプレイでもして聞きだしてやるわ!!」 第十話 ルイズの覚悟 その⑤ 「いいや、くたばるのはお前のほうだフーケ。」 「ハッ!!」 動脈が切られたフーケの首から血が噴出している。 「僕がさっき『くしゃみ』を放った。気絶している僕には、さすがのアンタも警戒を緩めていたようだね。」 「き、貴様ァ!よくもっ!このフーケに対してッ!」 フーケが全攻撃を集中させてマリコルヌに襲い掛かった。 「地獄で詫びろ。僕のルイズに『ゼロ』といったことを。」 「こんの糞デブがァァァァァァッ!」 グサグサグサッ! フーケの背中に氷が突き刺さる。怒りで総ての攻撃をマリコルヌに向けていて、防御が疎かになっているのをタバサはすかさず狙う。 「キュルケの分。」 「…バ、カな……」 そうして土くれのフーケは絶命した。 タバサがシルフィードで降りてくる。 「乗って。」 ルイズ一行とフーケの遺体を乗せて、シルフィードは学院に向けて出発する。 帰路では、マリコルヌは緊張が解けて眠りに落ち、ルイズはその巨体を枕にして気絶していた。 タバサは人知れず涙を流し、シルフィードは珍しく空気を呼んで黙っていた。 そして、水分が足りなくなってきたフー・ファイターズは… 第十話 ルイズの覚悟 その⑥ 「着いた。降りて。」 丁度朝日が昇る頃、一行は学院に到着した。 「やっぱり君は綺麗だなぁ。」 「ッ…イタッ!ももも、もっと優しく持ってよねッ!」 ルイズをお姫様抱っこして降りてきたマリコルヌ。お姫様抱っこされているルイズ。 「よいしょっと。」 普通に降りるフー・ファイターズ。そこで全員がフリーズした。 「どうして。」 「た、確かに死んでたはずなのにぃッ!」 タバサが驚き、マリコルヌが腰を抜かす。勿論ルイズを抱えたまま。 なぜならそこにはフーケがぴんぴんして立っている姿があるからだ。 しかし、ルイズは感ずいた。 「も、もしかして、フー・ファイターズ?」 「ああ、私だ。」 赫々然々でこの能力と乗っ取った訳を話す。 このあと学院長室に行き、学院長の前でも同じことを話す。 「ふむ、ミス・ロングビルがフーケじゃったとはのう。それに学院内で三人も死者を出してしまうとは…。(ミス・ロングビルを入れたら四人じゃが。) これは親御さんになんて説明をしたら…。それと、えぇとフー・ファイターズ君じゃったかな。 その体で生活するんじゃろう。みんなにはフーケの正体は話さないでおくわい。あと、フーケの遺体は何者かに盗まれたということでいいかのう。因みに普段はロングビルとして生活をするのがいいじゃろ。」 「ご理解のほどをありがとうございます。」 「うむ。ミス・ヴァリエールとミスタ・グランドプレにはシュヴァリエの爵位を、ミス・タバサには精霊勲章の授与を申請しておいたわい。」 「ありがとうがざいます。」 生返事である。友人の死というものは重いものである。 その重さはその友人とどれだけ親しかったかに比例してくる。 ルイズは打ちのめされていた。 第十話 ルイズの覚悟 その⑦ フリッグの舞踏会にて。 タバサはやけ食いをしている。ルイズは壁に寄りかかっている。ロングビル(F・F)は水を飲んでいる。 そこにマリコルヌが現れた。 「僕のルイズ、君には悲しい顔は似合わないよ。」 「だって…」 「ミス・ツェルプストーだって君のそんな顔は望んでいないと思うよ。」 「でも…私…」 「僕と踊っていただけませんか、ミス・ヴァリエール。」 「…え?」 聞き返すルイズにマリコルヌは微笑んで繰り返す。 「僕と踊っていただけませんか。笑顔だよ、笑顔。それじゃあミス・ツェルプストーが心配して、君から離れられないよ。」 ルイズは涙を流した。そこにはキュルケを失った悲しみもあるけれど、マリコルヌの優しさに打たれたというのが今は主な理由だ。 そして微笑んで返答する。 「…えぇ、喜んで、ミスタ・グランドプレ。」 二人の踊りが始まる。マリコルヌのぎこちないリード、デブとロリの組み合わせ、しかも此度の舞踏会の主役であるということで二人は周囲の目を引く。 「こここ、今回は、そ、その、特別だからね!基本的には相手にしないわよ!」 赤くなったルイズが言う。 「じゃあいつかは、その特別が普通になるように努力するよ、僕のルイズ。」 更に茹蛸になっていくルイズ。 「あああ、あんたなんか一生無視してやるんだから!」 とか何とか言いながらも、最後まで踊り続ける二人。それをフー・ファイターズが見守って、時間はどんどん過ぎて行く。 二人の時は止まることはないだろう。例え、加速することがあったとしても…。 ゼロの奇妙な使い魔~フー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ~ [第一部 その出会い] 完 エピローグ フリッグの舞踏会と同時刻。場所は広場。 オールド・オスマンは、キュルケの遺体を捜していた。 FFから詳しい場所を聞いていたからだ。 しかし、捜せど捜せど出てこない。 次の日にしようと諦めて帰り、その翌日、キュルケの親から連絡があった。 学院を辞めたといって娘が帰ってきたので、今までお世話になった、ということを伝えてきたのだ。 オールド・オスマンが驚いてキュルケの部屋だったところに行くと、そこはもうもぬけの殻だった。 死んでいるはずの人間が動き出していることにオールド・オスマンは正直恐怖した。 ここはどこぞの寒村ではない。由緒正しき魔法学院なのだ。 オールド・オスマンは、これらの出来事を自らの心に閉まっておくことにした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2841.html
真・女神転生if より 流星野郎 を召喚 流星 ゼロの悪魔召喚師-02 ゼロの悪魔召喚師-03 ゼロの悪魔召喚師-04 ゼロの悪魔召喚師-05 ゼロの悪魔召喚師-06 ゼロの悪魔召喚師-07 ゼロの悪魔召喚師-08